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「ねーねースパナー。暇だよー」


ソファーにうつ伏せになり、側にあったクッションを胸に抱え、足をパタパタと動かしながら機械をいじる背中を見つめる。


「ウチは暇じゃない」


しかし返ってきた言葉は素っ気ないもので、名前はむぅと頬を膨らませた。


「スパナのケチ。いいもーん、一人で遊ぶし」

「そうしてくれ」

「あーあ。暇だ、暇だ、暇だ♪」

「…何してる」


急にリズムを取り始めた名前にスパナは作業する手を止めて彼女の方を振り返る。


「何って、歌ってるんだよ」

「そんな歌あるのか」

「今私が作った!!作詞作曲名前!!ドヤァ!!」

「声に出してそんな顔するものなのか、それ。というかセンスないな」

「えーいうるさいうるさい。暇だ、暇だ、暇だ♪」


わけも分からない歌に合わせて変な踊りまで踊り出した。盆踊りと泥鰌掬いを合わせたような、なんとも奇妙な動き。

スパナはたまに、いや頻繁に、なんでこれが自分の恋人なのかと疑問に思う。彼女に対してこれと呼ぶのもどうかと思うがそれは致し方ない。告白してきたのも向こうからで、今思い出しても実に軽いものだった。


“スパナー”

“どうした?”

“私スパナの事大好きなんだけど”


…で、ある。そして“私と付き合って?”とまるで買い物にでも行くようなノリで言ってきたのだ。そんなノリに押され、いつの間にか頷いていた自分がいた。付き合い始めて一ヶ月とちょっとが経つが、これまでとそう変わりは無かった。

話を元に戻せば、スパナは名前が恋人であることをしばしば疑問に思うのである。そしてよく続いてるな、とも。

しかし辿り着く理由はいつも同じだった。

結局自分は名前の事が好きなのだ。

一見マイペースでバカだが、名前は良く気が利く。
機械に没頭して食事を取るのを忘れたと思えば側にはお盆に乗ったご飯。
いつの間にか寝ていた時には部屋の電気を消して薄い毛布を掛けてくれる。
汚れていたつなぎもいつの間にか洗濯され、綺麗になっていた。

言い出せば切りがない。小さな事だがそれがスパナにとって凄く嬉しいものだったのだ。それに無駄に可愛い子ぶるより全然いいと彼は思っている。一緒にいて疲れるのだ、そういう奴は。名前といると違う意味で疲れるのかもしれないが、それは別に嫌なものではなかった。

未だに歌って踊る名前をスルーして、ある場所を見れば、自作のアメがない。知らない間に食べきってしまったのだろうか。そう思っていると、


「あ、アメ無くなりそうだったから私作っておいたよ。今持ってくるね」


と急に普通の人になった名前は部屋を出ていった。

本当に気が利くな。






戻ってきた名前ははい、とスパナに渡す。それはいつもスパナの作るアメの形をしっかりと模していて驚かされた。


「すまない」

「んー別にいいよ。私が好きでやってるしね」


特に表情を変えることなく名前はまたソファーにボフンと座る。


「そうだ今度さ、二人でどっかいこーよ」

「暇だったらな」

「やったー!!」


名前の作ってくれたアメを銜えながら、作業を再開する。


後ろで近々の計画をあーだこーだ言いながら練る名前。

その声を聞きながらスパナもまた、頬を緩めたのだった。









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