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「きょーこー、ハルー、イーピーン」
………今日に限って、どうして誰もいないの。
まぁイーピンはバイトだろうし、二人は…あ、例のケーキ巡りだ。
なんてタイミング。
「ねぇツナ…暇…」
「え?知らないよそんなの。ってか見てわからない?俺今忙しいんだよね」
何故か黒ツナ様になっていらっしゃった。
「あ、ビアンキ!」
「あら名前じゃない」
「ちょっと話聞いてよー…」
ちょうどアジト内を歩いていたビアンキを捕まえることに成功した。
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のは良かったんだけど、
「男っていうのわね、そういう生き物なのよ…。あぁ、あの人もそうだった…」
なんて遠い目をしながら語りだしたから、直ぐ様逃げた。ビアンキがこうなると止まらないし…。
「…で、結局僕のところ?」
「ごめんよ正一君」
「僕は別に構わないけど…」
スパナがまた嫉妬するんじゃないかい、と少し笑ってる。あれ以来私がずっとスパナと一緒にいたこともあって正一とは会っていなかったけど、二人の雰囲気から別に仲が悪くなったわけじゃないってわかってほっとした。
「スパナ今日は一人で出かけるって言うんだもん。…あ、正一、スパナなんか言ってなかった?」
「えっ!?なんで僕に聞くの!?」
「いやなんとなく…」
「そ、そっか。うーん…ごめん。わからない」
「だよねぇ」
「…………(危なかった…)。」
「正一?どうかした?」
「ううんっなんでもないよ!」
どうにも正一は何か隠し事をしてる気がするけど、そこは無理には気かないでおこう。
「なんにせよ、行き先を言わないで何処かに言っちゃうのはやっぱ不安だなぁ…」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「え?」
「詳しいことは僕にだってわからないけど、でもスパナは名前を裏切ったりはしないんじゃないかな?」
「…あ」
そうだ。スパナはいつだって私を見てくれていた。なんだかんだ優しくて結局は甘やかしてくれる。スパナから受ける眼差しも体温も、凄く温かかった。
私だって一番にスパナが好きなのに、どうして信じてあげられなかったんだろう。
そう思ったら熱いものが込み上げてきて、
「やっぱりここにいた」
「スパナっ…!」
ちょうど帰ってきたスパナに思いっきり抱きついた。
「名前泣いて……正一?」
「えっ!?」
「違うよ!私が勝手に…!」
どうにかこうにかその場をおさめて、ひとまず作業場に戻ることにした。
「…それで、スパナに申し訳なくなって、気づいたら涙が…」
「すまない」
「どうしてスパナが謝るの?」
「名前を不安にさせた」
「そんなこと、…ん」
二度目のキスは私の涙で少ししょっぱかった。体が少し離れると、スパナはさっきよりももっと真面目な顔になって私を見つめてきた。
「スパナ?」
「不安にさせてすまない。だけど、驚かせたかったから」
「え?」
「もうあんたを泣かせたりしない。だから」
ウチと結婚してくれ
そのまま左手を取られて持ち上げられると、薬指に冷たい感覚。私の指にぴったりはまって、シルバーの輝くそれは紛れもなく指輪で。
「………っ」
「今日はコレを買いに行っていた」
「…っこんなの、反則だよぉ…」
引っ込んだはずの涙がまた出てきて、私はもう一度スパナに抱きついた。
「ウチはもう約束を破ったな」
私の頭をポンとしてスパナは少し困ったように笑う。意味がわからなくて首を傾げたら、名前を泣かせた、って言う。
「…じゃあ結婚はなし?」
「それは困る。ウチはあんたと結婚したい」
からかうつもりで言ったのに至って真面目な声で返事が返ってきた。
「…ふふ、私もだよ」
「!」
嬉しさで頬が弛む。スパナの胸から顔を上げてみると、スパナの顔がほんのり染まっている気がする。
「スパナ…?」
「だめだ名前。ウチ今、思ってた以上に嬉しい」
そんな言葉と共に、今度はスパナが私を抱き締めた。
スパナの背中に回して、右手で左手の薬指を触る。
私、世界で一番幸せかも
なんて思ってしまうくらい満たされてる。
「そうだ。あとで行くとこあるから」
「うん?」
どこだろう。一瞬だけそう思ったけど、すぐにどこでもいいやってなってしばらく幸せの余韻に浸っていた。
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