「それであんた逃げ出したわけ?」
情けないわね。
次の日の朝、昨日の出来事を話したらため息をつかれた。ため息をつきたいのは私も同じだよ。
水戸部くんがどうとかいう前に多分もう部活を見に行けない。イコール水戸部くんを拝む機会がなくなる。
「おっいたいた!」
そんなとき、耳に届いたのは聞いたことがあるようなないような、とりあえず元気のいい声。でも他にも教室には人はいるから会話を続けていたら、肩をポンポンと叩かれる。なんだ私か。そう思いながら振り向くと
「みみみ水戸部くん…!」
「声掛けたの俺…!」
「ん…?あ、小金井くん!」
どんだけ水戸部しか見えてないのよ…。
隣でボソッと呟かれた気がしたけど聞こえないふりをした。
「あの…私に何か御用で…?」
「いや昨日すごい女の子がきたって聞いたからさー。え?そうなの?俺全然知らんかった!」
これだけ聞いていたら、まるで小金井くんがかなりおかしい人に見える。本当はそうじゃなくて水戸部くんが何かを言ったのだろうけれど。
「えっと…名字…だっけ?」
「あれ、どうしてしってるの?」
「監督が調べたんだってさ」
「え…」
何してるの相田さん…。お願いだから私の傷を抉らないで…。
「俺昨日風邪で休んだんだけどさ、水戸部の通訳したんだって?」
「え、いや、通訳とかそんなんじゃ…」
「それに結構部活見に来てくれてるっぽいし?」
「なんでそれを…」
密かに見守ってたつもりなのに…!
すると小金井くんは今さっき水戸部から聞いたんだ、なんて実に心に響くことを言ってくれた。気づいてくれてたんだ…。っていうか今さっきって…小金井くんが水戸部くんと会話(?)をしたときかな。やっぱ小金井くんすごいわ…。
「ま、なんにせよ気を付けた方がいいかもな!」
「…?」
言われた意味が分からず首を傾げると、監督と日向が名字に目をつけたみたいだからと返答。
目をつけた…?一体なんの話をしているの。
「でも、これからも練習見に来いよ!」
「え!?」
あんな恥を晒してしまったのに行けるわけない…!もう行きません。というか行けませんと答えようとしたら水戸部くんと目があった。で、頷かれた。
「え、いや、その、まぁ、機会があれば」
気づけばそう告げていて、つくづく私は彼に弱いことを知った。
じゃあなと小金井くんが言うからばいばいって手を振ったら水戸部くんまで振り返してくれた。
「……っ〜!!」
たまらず友の手を握ると、わかったからこの手を離しなさいと軽く窘められる。
だけどそんなことも気にせず私はぎゅうぎゅうと手を握り締めてどうにか気持ちを抑えた。
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