私はときどき、小金井くんがとても羨ましくなる。
いつも水戸部くんと一緒にいて、一番の理解者。誰もがわからない彼の言葉を、小金井くんだけはいつも分かっていた。それが凄く、羨ましい。
「あれ…?」
でもその小金井くんは今日、部活にはいなかった。しばらくそのまま見ていたら、キャプテンである日向くんが水戸部くんに喋ろと言い出した。みんな水戸部くんが言いたいことがわからないようで私も必死に考えた。
えぇっと、今はたしかリバウンドの練習で、水戸部くんと伊月くん、火神くんと日向くんに別れててー…あ。
「あのっ…水戸部くんは多分ジャンプしたときに火神くんの足踏んじゃったから、それを謝ってるんだと思います…!」
ん?と誠凛バスケ部の皆様方の視線が一気に向く。
…やらかした。ギャラリーから叫んじゃったじゃないか。どうしよう。みんな何コイツ的な目。完全に痛い子だ私。お願いだからこっち見ないでください。
羞恥で死にそうなので出入口へと向かう。でも監督である相田さんが水戸部くんにそうなの?って聞いているから自然と足が止まってしまった。だってこれで違ったらもう笑いもん。気になるよそりゃあ。
おそるおそる水戸部くんの方を振り返ると、コクコクと何度も頷く彼がいた。よ、良かった…!これで最悪の事態は免れた。おおっとみんなの歓声が聞こえるけど私はその間に改めて出入口へ向か…
「ちょっと待って!」
えなかった。止めないで、相田さん。
「な、何でしょうか」
出来れば振り返りたくなかった。だけどシカトとか嫌だし無理だし。でもその代わり首が変な音立ててるよ。
「どうしてわかったの?」
「え、あ、練習内容とそのときの状況、あとはー…まぁ勘、とか」
「は?」
え。なんか私まずいこと言ったかな。あ、勘っていったのがダメだったかな。
「それだけ?」
どうしよう相田さんの言っている意味がわからない。それだけって何?いや意味はわかるけどなんていうか、ね。
「あるとしたら水戸部くんの人柄とか…」
なんて、私が勝手に優しい人だろうなと思ってるだけなんだけど。
なんかみんな唖然としてる…?あぁそりゃそうか。名前さえ知らないであろう女子にこんなこと言われたら誰だって驚くよ。
もうだめだ。堪えられません。特に水戸部くんの視線が。いろんな意味で死にそう。
言葉を無くす皆様方の視線もそこそこに、私は一礼して体育館をダッシュで飛び出した。
「…なんだったんだ。…つかそんなんで謝んなくていいっすよ」
こくんと頷いた水戸部を合図に、皆去っていった彼女の事を考えながらも練習を再開した。
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