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「うおっコレ結構重いんスねー…」


たっぷりと水の入ったじょうろを持てば、体がズンと下に引っ張られる。


「あっあの…私、かわりましょうかっ…?」

「いやいやいや、それじゃ意味ないっスよ。そのために俺はついてきたんスから。だから名前っちは何もしなくていいんスよ!」


そう言うと
あ、そうでした
なんて言って笑う。

コロコロ変わる表情が可愛くて、つい抱き締めてしまいそうになる。

それをすんでのところで自制して、じょうろを落としてしまわないように手に力を入れた。



─────



「これ、どこに置けばいいっスか?」

「あ、じゃあここに置いておいてください」

「了解っス」

「─…ところで」


じょうろを指された場所に置き一息着いていると、名前っちが凄い心配そうな顔をして問いかけてきた。


「何スか?」

「……時間、大丈夫ですか?」

「…………。」


何故か笑った顔のまま静止。


「あああああ!!!!!!!!」


次の瞬間には叫んでいたけれど。


時計を見れば、いつもの時間を30分オーバー。

ヤバいヤバいヤバい。

名残惜しくも急いで戻ろうとすると、


「黄瀬さんっ!」


名前っちに呼び止められた。


「すんませんっス!!俺…「私も行きます!!」………へ?」


今は真っ先に体育館に向かわなければと、名前っちにそれを言おうとしたらまさかのこんな言葉で遮られた。


「黄瀬さんが時間に遅れてしまったのは私の責任です」

「いやそもそも俺が足攣ったのが始まりっスから名前っちのせいじゃないっスよ!」

「それでも、手伝ってもらったのは事実ですので一緒に行きます。いえ、行かせてください」


今日、1つ発見。

名前っちは自分がやると決めたことはきっと最後までやり遂げる。

俺は苦笑しながらも、名前っちと一緒に体育館へと向かうことを決めた。



──────

────

──



「黄瀬ぇぇぇ!!!!!!!」


体育館に入った瞬間笠松先輩の足が飛んでくる。

が、


「あのっ…」

「ん…?」


名前っちが目の前に立ちはだかってくれて、助かった。


「なっ…黄瀬テメー遅れたくせに女連れ込んでんじゃねーよ!!」


笠松先輩の言葉に他の練習してた人達も集まってくる。


「黄瀬の彼女?」

「最近ご機嫌だったのはコレかよ…」


なんてかなり好き放題に言われる。

俺は口では否定するものの、名前っちが彼女だって言われることが嬉しかった。

…名前っちは嫌かもしんないスけど…。ってあれ?


「名前っち…?」

「へっ…!?」

「なんか顔、赤くないっスか?」

「そ、そそそんなことないですよ!?あのっ笠松先輩でしたよね!?」

「お、おう」

「今日黄瀬さんが遅れてしまったのは私がじょうろをひっくり返してしまって…黄瀬さんがわざわざ水を汲みに行くのを手伝ってくれたからなんです!!だから、黄瀬さんを責めないでください!!えと、じゃあ私っそろそろ戻りますね!?」


言うだけ言って、名前っちは勢いのある一礼をして体育館を去っていった。

俺はそれをただ呆然と見ているだけ。


名前っちの顔が赤かった。

かなり焦りながらも俺が足を攣ったってことは伏せて話してた。


この2つが頭の中に滞在する。
まぁ、大半を占めているのは
前者の方、なんだけれど。


「黄瀬」


いくらか落ち着きを取り戻した笠松先輩の声。


「今日はわけがあったってことで許すが…次やったらまじでシバくぞ」

「はいっス!!」

「テメー反省してんのか!?」

「いたっ!ちゃんとしてるっスよ〜」


次やったらって言ったのに…。それ言ったらまたシバかれるから言わないけど。

それでも、俺の中の“可能性”が今さっきのでぐんとアップしたせいで顔が自然と緩む。


「やっぱ反省してねーだろ!!」


…言わなくてもシバかれた。
痛い。

まぁいいや。
いや実際は良くないけど。

とにかく、明日名前っちに合うのがいつもより数倍くらい楽しみになってきた。

少しくらい期待したってばちはあたんないっスよね…?







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