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黄瀬は今日もまた、名前の元へと向かう。


「名前っち〜」

「…なんですかその呼び方」

「俺、認めた人間には“っち”をつけて呼ぶんスよ」

「…変な呼び方ですね…。っていうか私、今まで認められてなかったんですか」

「変っ!?ってああっ違うっスよ!!認めてないわけじゃなかったんスけど、その、何ていうか!!」


慌てて言い直そうとするも上手い言葉が出てこない。

そんな俺を見て、名前っちはクスリと笑った。


「…え?」

「あ、ごめんなさい。でも、なんだか黄瀬さんが面白くて。黄瀬さんの言いたいこと、なんとなくわかりました」


極々自然に向けられる笑顔。それが自分に対しては初めてだったような気がした。実際はそうじゃないかもしれないけど、やっぱり嬉しくて俺も笑顔になった。




ブチブチブチ…


「えっちょっ…、名前っち何やってるんスか!?」


しばらく談笑したあと、彼女は無惨にもマリーゴールドとやらの花をもぎだした。花に関して全く無知な俺には理解出来ない行動だ。


「終わりかけたもの、つまり茶色くなってきてしまっているのを取っているんですよ。そうした方がそこに養分などを送る必要がなくなり、別のところに栄養がいくんです」

「へぇ…」


よくよく見ると、確かに花弁の一部が茶色くなっていて普通のよりもパサパサしてる。

俺はしゃがみこむと、名前っちの隣に並んでそうなっているものを探した。


「…んー例えばこういうのっスか?」

「あ、はい」


俺の行動が意外だったのか、名前っちは一瞬動きを止めた。


「どうやって取るんスか?」

「こうやってー…」

「こう…?」


見よう見まねでやってみると花本体が茎から離れた。


「あ、結構簡単に出来るんスね」


名前っちは笑顔で頷いた。


なんだか照れ臭くて指で頬の辺りを掻けば、彼女はまた笑う。


「なんで笑うんスか?」

「黄瀬さんって案外不器用だったりするんですか?」

「え?」


一体なんの話をしているのかわからなくて固まっていると、

今ので顔に土、つきましたよ

って言って、ポケットから出した薄ピンク色のハンカチで俺の頬を拭いた。

触れるのはハンカチの生地だけじゃなくて、名前っちの手も俺の肌を掠める。


「……っ」


当然互いの顔も近いわけで俺は紅潮せずにはいられなかった。


「はい、これで大丈夫です」

「あ、ありがとうっス」

「どういたしまして」


名前っちは何事もなかったかのように俺から離れていく。


「…あ」

「どうかしました?」

「いや…」


無意識に彼女の手を掴みそうになっていたのを抑えて、平常心を保った。



黄瀬は自分自身の心の中で、昨日とは全く違う結論を出していた。



この気持ちは

興味本意なんかじゃ、ない──。






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