「名前ちゃ〜ん!」
「黄瀬さん…また来たんですね…」
「今休憩中っスから!」
そう、ですか
名前ちゃんはそう言って花に水をやる。こんなやりとりはもう一週間。そろそろ違う反応をしてくれても、と切実に思う。
「ずっと思ってたんスけど、名前ちゃんは園芸部かなんかっスか?」
「いえ」
「じゃあなんで毎日花を?」
「単純に、好きだから、です」
「………。」
そう言って花に優しく触れる名前ちゃんは今までに無いくらい穏やかに、柔らかく微笑んだ。
─…本当に、花が好きなんだなって感じた。
……花が、羨ましい。
俺は名前ちゃんのそんな表情、見たことないのに。
って、えっ!?
何考えてんスか俺っ!?
「…黄瀬さん?」
一人で頭を横に振っていた俺に名前は花から視線を逸らして首を傾げる。
「あ、いや、また笠松先輩にシバかれるかなぁ〜なんて」
我ながら下手な嘘だと思う。それでも名前ちゃんは何一つ疑おうとしなかった。
「あぁ、黄瀬さんの話によく出てくる方ですね。でもなんだかんだいって黄瀬さんはその笠松さん…?のことを嫌ってはいないでしょう?」
「なんでそう思うんスか?」
「うーん…やっぱり部活のことを話してるときの黄瀬さんは一番楽しそうだから、ですかね」
「楽しそう…」
「はい」
頷く名前ちゃんは出会った頃よりは多分俺に心を開いてくれてると思う。
最初は多少警戒していたみたいだけど、今は毎日のように話しかける俺を、呆れながらも受け入れてくれるようになった。
それでも、
まだ足りないと思うのはどうしてだろう。
もっと彼女の事を知りたい。
そんな感情が、日に日に大きくなっていくのを俺は感じていた。
でもこれは恋愛感情じゃない。
自惚れているつもりはないけれど、
自分のことを知らない名前に興味があるだけ。
そう結論を出して、じゃあまた明日と名前ちゃんに手を振った。
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