「名前っち…?」
彼女が俺の名前を呼んだ気がした。今にも消えそうな声で。なんて、自意識過剰にも程がありすぎるか。
自惚れだと決めつけて、俺は気にしないことにした。
でも、この胸に残るモヤモヤはなんだ…?。
窓の外を見れば雨。だけどバスケは天候に左右されないから別に構わない。
…そういえば、雨の日って名前っちはどうしてるんだろう。
やっぱりすぐに帰るとか?
いやいやそれは困る。何しろ今日は彼女に告白しようと思っていたのだから。
こうなったら部活の前に彼女のところへ行こう。
そう決意して俺は残りの授業を半分聞き流して過ごした。
キーンコーンカーンコーン
6時間目が終わり、そのまま帰りのホームルーム。
早く終わんないかな。
「きりーつ、れーい」
大してやる気もない号令が終わり、やっと放課後。
俺は名前っちの教室に向かった。
─────
「きゃあ黄瀬君!?」
突如登場した俺を迎える声。まぁ正直今はどうでもいい。
「名前っち…じゃなくて、名字さん見なかったっスか?」
「え…名字さん…?」
騒いでいた女の子達の表情が曇る。
「何かあったんスか?」
「それが…名字さん昼休みから教室に戻ってこなくて…」
「え?」
「鞄もあるし、サボるような子じゃないから心配してて…名前どこにいるんだろう…」
口調や呼び方からしても今目の前にやって来て心配そうな表情を浮かべているこの子が彼女の友達だろう。俺は彼女だけを一旦教室から連れ出して詳細を聞くことにした。
「さっきの、詳しく聞かせてもらっていいっスか?」
「えっと…昼休みは一緒にお弁当食べていたんですけど、その後先輩4人に呼ばれて…それからずっと…」
「…そうっスか」
「もしかして心当たりが…?」
「んー…とりあえず、その先輩のとこに行ってみるっスわ。その人は大体検討がつくんで」
「そうですか…。あの、黄瀬君」
「何スか?」
「名前の事、よろしくお願いします」
思い違いかもしれないけど、この子に俺の名前っちへの想いが知られてる気がした。
俺はその言葉に強く頷いて、先輩の下に向かった。
「あっ涼太君!」
何故か俺を名前呼びする彼女は俺を自分の物だと勘違いしてる。
「どうしたの?」
「名前っちを、どうしたんスか」
「え、な、何の話?名前って誰かしら?」
明らかな動揺。やっぱりこの人だった。そうだと分かったら無性に腹が立つ。
「俺は別にあんたのものでもなんでもない。つーかむしろ、あんたみたいな人、大っ嫌いっスわ」
「……っ!」
顔を歪ませた彼女は俺に何かを投げつけてそのまま教室を去っていった。
その何かを拾った瞬間俺は弾かれたように教室を飛び出していた。
「─はぁっ、」
ついた先は体育館倉庫。
なんでこんなところに…!
俺は急いで鍵を取りだし、ドアを開け放つ。
こんなことなら彼女の声が聞こえたときに、教室を飛び出していれば良かった。
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