顔が赤くなった理由。女の子達と一緒にいる姿を見て胸が痛くなった理由。
その答えはひとつしかない。
私は黄瀬さんを
好きになってしまったんだ。
「名字さん、ちょっといいかしら?」
昼休み。私は名前も知らない人に呼ばれた。多分先輩。その女の人の後ろには取り巻きであろう人達が三人。
なんでこう、女子って群れるんだろう。
別にそれが悪いってわけじゃないけれど、こういうのは余計に弱い者が集まっているようにしか見えない。
彼女達に着いていくと、そこは体育館裏。
「あんたさぁ、涼太のなんなわけ?」
「何って…」
言われて初めて気づいた。私は黄瀬さんのなんなんだろう。…友達?いや、そう思うのは痴がまし過ぎる。
「……ただの、知り合いです」
結局はこう言うしか無くて、凄い悲しくなった。
「はぁ?じゃあその“ただの知り合い”になんで涼太があんなに構うわけ?」
「知りません、そんなの」
ダメだ。ここで弱気になっては。
「……っこいつ!」
取り巻き達が顔を見合わせる。この後起こるであろう展開は軽く予想出来たけど、それを回避する術がない。だからとことん、強気になることにした。
「あなた達も黄瀬さんのなんなんですか?っていうか、こんなことしてたら彼に嫌われますよ?」
「…私はっ」
「答えられないんですか?」
パンッ
言うが早いか、辺りには乾いた音が響き渡り頬がじんじんと痛みだす。
「…った」
「生意気。閉じ込めておきな」
彼女の言葉に取り巻き達は頷き、私を取り囲んだ。
抵抗はしたけど1対3では敵うはずもなく、私は体育館倉庫に押し込められる。背中を思いっきり押されたせいでバランスを崩し地面に滑り込むように転んでしまった。
「……っ」
床はコンクリート。先についた手から肘にかけての側面が焼けるように熱い。
「いい気味」
彼女嘲笑し、身を翻し去っていく。
目に見えていた光も、すぐに閉じられた。
残念ながら鍵は内からは開けられない。かろうじて、小さな窓から差し込む光で周りはうっすらと把握できた。
腕の痛みを堪えながら、立ち上がり分かっていながらもドアの方へと向かう。
「やっぱり、開きませんね…」
そのとき5時間目の始まりを告げるチャイムが鳴り始めた。
「どうしたらいいんでしょう…」
携帯はバッグの中、外で行う体育もない。それでも、放課後にはグラウンドを使う部活生がここを開けに来る。
途方に暮れながらも冷静でいられるのはそれが分かっているからだろう。
少し安心したからか、さっきまで治まっていた腹痛がまたやってきた。痛みの原因は分かっている。28日周期でやってくるといわれるアレだ。しかも私はかなり痛みを伴う方。
次第に立っていられなくなってマットに倒れ込んだ。
──────
───
…やっと、5時間目の終了を終わらせるチャイム。
腹痛は酷くなったり治まったりを繰り返し、私はその場から動けなくなっていた。
あと、一時間。
6時間目が始まって少したった頃、最悪な事態が起きた。
トタン屋根にあたるのは
紛れもなく、雨の音。
「う、そ……」
この雨では部活はきっと中止になる。土砂降りというわけではないけれど、サーサーと降り注ぐ雨は簡単には止みそうになかった。
何も言わずに出てきてしまったけれど、心配しているかな。
教室にいるであろう友人の顔を思い浮かべる。
それに、
(黄瀬さん…)
無意識のうちに私は彼に助けを求めていた。
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