今日は卒業式だ。
旅立ちの春が来たんだ。
卒業証書を片手に、友達たちや先生、チームメイトたちと写真を撮ったり。私もその中身混じって、あまり仲が良くなかった子ともその場の流れでたくさん写真を撮る。青春の一ページとなるんだろう。いろんな人たちがいて、泣いてる子もいた。その中には、

「及川先輩、卒業しないでください!」

そんな声も聞こえて。その周りにいる女の子たちは皆、下級生の子ばかり。きっと及川の第二ボタンをもらいに来たのだろうが。

「んーそれは無理だねえ」
「及川先輩がいないと寂しいです」

どうしてそんなに素直に言えるのだろうか。恥ずかしくないのだろうか。私は、…付き合ってても言えないのに。私と及川は2年の時から付き合ってる。同じ部活で、私は白鳥沢に、及川は青葉城西に進学を決めた。初めは及川と同じ青葉城西に行こうと思っていたのだが、憧れの先輩が『名前ならきっと、青葉城西より白鳥沢の方がいいよ』と言われ、悩んだ挙句、白鳥沢に決めた。私のこの選択に、及川は何も言わなかったが、それ以来距離が出来てしまった。いろいろと入学準備で忙し過ぎるあまり、気にすることもできなかったが、自然消滅した、と言っても過言ではない。

「ねえ名前、いいの?」
「何が?」
「何がじゃないわよ。及川くんと話さなくてもいいの?」

『もうこれでしばらくは会えなくなるんだよ』と言う、親友の奈津子。

「いいの。及川だって、私の顔見たくないと思うし」
「…ちょっ、名前…」
「私だって、会い辛いし…」
「名前ったら、」
「及川とのことはもう、過去になっちゃったから」

「へえ…名前ちゃんにとってもう俺は過去なんだ?」

その声を聞いた瞬間、やってしまったと思った。奈津子が私の名前を呼んでたのはこれだったのか、と思うが、まあいっかと開き直る。だって事実じゃないか。何か言われても、別に反撃だってできる。そう身構えていたけれど、

「…名前ちゃん、一緒に帰ろうか」
「…いいよ」

いつもの調子で及川は私にそう言う。気にも留めてないのは、及川だって一緒じゃない。そう思いながらも了承し、奈津子には『また遊ぼうね』と言って校門を潜った。でもなぜか、及川は私の手を握ってきて。…なぜ握る必要があると思ったが、まあこれも青春の一ページと思って何も言わなかった。

「ねえ名前ちゃん」
「何?」
「名前ちゃんは何で白鳥沢にしたの?」

ド直球に聞かれて私もつい黙りこむ。なんでこいつはいつもいつもこんなかな…。そう思いながら、私は「じゃあなんで及川は青葉城西にしたの」と質問を返す。

「だって北川第一は皆、大体青葉城西にするじゃん?」
「だからだよ」
「え?」
「だから私は青葉城西にしなかったの」

先輩に『名前は絶対に青葉城西より白鳥沢の方がいいと思う。その方が、いろんなチームの主将クラスの人がいるし、経験になるよ』と。それを聞いて、そちらにしようと思ったのだ。

「…そっか」
「それにウシワカもいるしね」
「…何、名前ちゃん、俺からウシワカちゃんに乗り換えるつもり?」

『酷い〜名前ちゃん!』なんて嘘の泣き真似をしながら言う及川。そう言うつもりじゃないんだけどな。なんでこいつはいつもいつもこんな調子なんだ?高校でもコイツの相手・保護者役を担わなければならないであろう岩ちゃんは大変だな、と思いながら適当に流す。

「じゃあ、及川」

手を繋いだままの状態で、私は及川の方を向く。すると、及川も私の方を向いて。

「ここで“サヨナラ”だね」
「…そうだね、名字ちゃん」

「「バイバイ」」

手を繋いだままバイバイして、そっと離した。

後から聞いた話、及川は私が青葉城西へ行くと思っていたから、白鳥沢の推薦を断り、青葉城西へと進学を決めたらしい。
これを聞いて、諦めがついた。
鼻っから私たちはすれ違っていたんだ。

―――さよなら、青春。