「テッちゃん!私、名前だよ!覚えてる?」

何年も会えなかったテッちゃんに会えた。テッちゃんは私を見て一瞬だけ目を丸くしてから穏やかな顔で微笑んだ。歩いている方向は帰り道とは違う。

「テッちゃん、寄り道しちゃ駄目だよ。久し振りに一緒に帰ろ!」

小学生の時、家が近所のテッちゃんと一緒に登下校をしていた。私が特に印象に残っているのは、下校の時にテッちゃんは私が見えなくなるまで見送ってくれていたこと。下校の時はテッちゃんの家に着いてから、その先の曲がり角を曲がったほんの少し向こうが私の家。曲がり角を曲がる時に顔を横に向けるとテッちゃんが手を振ってくれていた。私はそれに手を振り返すのが楽しみだった。そんな話をしながらテッちゃんの隣を歩く。

「喧嘩した時でも見送って手を振ってくれるんだけど、顔がムスッとしてて目は合わせてくれないんだよ。」

会っていない間にテッちゃんは高校生になっていた。昔は私の方が大きかったのに、今は随分と大きくなっていて見上げないといけない。昔から成長していない私からすると大人に見える。

「今から思うとかわいいよね。……あ、ムスッとした?今でもかわいいね。」

きっとかわいいと言われたのが気に入らないのだろう。ムスッとしたテッちゃんは子供に見えて思わず笑ってしまって、更にムスッとしてしまった。そんな反応をされるともっと言いたくなるもんなんだよ?

「僕はかわいくありませんし、今はムスッとしていません。名前も喧嘩をしている時はそっぽを向いて手を振っていたのに、何で僕の表情が分かるんですか?」

「それだとお互いさまでしょ。テッちゃんこそ目を合わせてないのに、何で私がそっぽを向いてたって分かるの?」

ムスッとしながらでもテッちゃんは考えている。余計にかわいい。周りからは存在を忘れられがちで、例え存在を認識されても無表情だと言われてばかりで、でも私にはテッちゃんの表情が分かるよ。

「名前は何か理由が思い浮かばないんですか?」

「え?んー、そうだなー?お互いに気付かない内にチラッと見てたとか?」

喧嘩なんて滅多にしないんだから、たまたま喧嘩した日のたまたまチラッと見た一瞬をお互いに知らなくてもありえるだろう。テッちゃんはまだ考えている。

「それかお互いに勘とか?喧嘩してたって手は振ってくれてるって信じてたのかも。私達ってさ、お互いに“きっとこうだろう”って分かってることは言わないことがあるよね。」

「そうでしょうか?」

テッちゃんは私と会えてからずっととても嬉しそうで、このままでは寄り道ばかりしていつまでも歩き続けそうだ。駄目だよ、ちゃんと帰らないと。