「真太郎ー!」

休み時間に名字が後ろを向いて話し掛けて来た。いつもいつもうるさい奴なのだよ。

「椅子の背もたれに跨がって座るんじゃない、はしたないのだよ。」

「ちょっとだけよー?」

名字がスカートの裾を持ち上げると、体操着の短パンの裾がチラチラ見え隠れしている。恥じらいもなければ色気もクソない。そんなもの名字に求めてはいないが、腹が立ったのでスカートの裾を持ち上げている手を叩いてやった。

「痛いっ…!ドメスティックバイオレンス!」

「残念だったな、俺は名字のドメスティックには当てはまらないのだよ。家族でも恋人でもないのだから。」

「じゃあただの暴漢だね!」

「そろそろ黙らないとその口を塞ぐぞ。」

俺が今日のラッキーアイテムのガムテープを手に握ると名字は黙った。おは朝はやはり偉大なのだよ。

「緊縛プレイだなんて…そんな…いつからそんなムッツリ眼鏡に……あ、元からだっけ?」

そろそろ本気で黙らせたかったので、黙って睨むと名字の笑顔が引きつっていた。空気も読めないバカなら本気でガムテープを使うところだったのだよ。

「私さ、こんな真太郎とドメスティックになれる他人は凄いと思う。」

しみじみ言うな、しみじみ言えばうるさくない訳ではない。名字は内容もうるさいのだよ。

「恋人など必要ないのだよ。」

「恋人と変人って限りなく似てるよね。」

だからしみじみ言うな!!話に脈絡のないバカのくせに漢字が分かるとは厄介な奴だな!!

「でもさ、いつかは恋人ができて家庭を持ってって感じ?」

「考えたこともない。」

「直接そう思わなくてもカップルを見ていいなぁとか、両親を見ていつかはこうなるのかなぁとか、老夫婦が縁側でお茶してるのを見て和むなぁとか、何かないの?」

名字は珍しく真面目な顔をしている。だから少しだけ考えてしまった。将来、俺の隣には誰かが居るのだろうかと。今、名字が隣に居るように……って名字は関係ないだろうが!

「どうしてそんなことを気にするのだよ。」

「真太郎の性癖調査でっす!」

少しでも真面目に考えてしまった俺がバカだったと、名字の両方のこめかみに拳骨を押し当ててグリグリしてやった。頭が割れては困るので本気は出さないのだよ、感謝しろ。

「いっ…やめ…っ、し…しん、たろ……ぅ〜、やぁ。」

名字はまともに声が出ないようで途切れ途切れに喋りながら固く目を閉じている。駄目だ、駄目なやつだ、これは。何となくそう思ったが、いきなり慌てるのも不自然というものだ。