いつの間にか、好きになっていた。 最初は、友達だったのだ。 中学に上がりたて、出席番号順で隣になったのは青峰大輝というバスケの大好きな男の子。 因みに好きなグラビアは堀北マイ。 これが私の趣味ともろがぶっていたのだった。 勘違いしないでもらいたいが、堀北マイはその当時グラビアの仕事だけではなく、女優の活動を始めていて、女優として私は好きだったのだ。 私も小学生時代はミニバスに入っていて、部活はバスケ部に入るつもりだった。 だから、彼の鞄についていたバスケボールのストラップを見てもしやと思い声をかけたのだ。 そうしてなんやかんやと話していくうちに、お互い堀北マイ好きであることが判明し、入学二日目にして私は超気の合う男友達をゲットした。 それからも私と青峰の趣味はかぶり続けた。 それはまあ不思議なほどに。 例えば、好きな洋楽のCDを友達に貸そうと学校へ持って行けば、それ俺も好きだと言われ、あいつが見ているお笑い番組は私も見ていて、彼が一番好きだと言ったゲームは私も一番好きだった。 「やべー、俺らめっちゃ気合うのな」 そう言って笑った彼の笑顔はとても眩しかった。 ただ、バスケにおいては驚くほど気が合わない。 というか、全く質の違うプレーヤーだった。 彼は点取り屋、所謂エース。 私はパスを回し、頭を使う司令塔。 だからクラスレクの男女混合のバスケで同じチームになったときの噛み合い具合は素晴らしかった。 それにまた二人で感動して、それからは練習後に青峰とテツ(青峰がそう呼ぶから私もそう呼ばせてもらっている)がやっている自主練に一緒に参加させてもらった。 毎日毎日、練習が終わってヘロヘロになって、外が暗くなっても三人でボールを追い続けた。 何も考えてなかった。 青峰とテツといういい親友二人に恵まれ、バスケでは一年生ながら二学期の昇格テストで一軍入りを果たし、日がくれてもボールを追いかける毎日。 とても、楽しかった。 けれど、それは二年の始まりの頃だったか… 「あんた、青峰くんと付き合ってんの?」 それは女バスの仲間に言われた一言だった。 彼女が言うには、偶々帰りがけに私が青峰と自主練をしているところを見た。 その時青峰が私の頭を撫でていたのだ。 その時の私たちの様子が満更でもなさそうだったらしい。 私はポカンとした後、ないない、と首を振った。 気の合う友達だと、否定した。 けど、その時気付いてしまった。 自分が青峰に恋していることに… 初めて青峰に頭を撫でられた時、ドキンと心臓が高鳴ったのだ。 けど、そんなことは褒められた嬉しさでどっかとんでいったから気づかなかった。 それから何回もそういうことはあったけど、すぐまたバスケに戻ってしまうので不思議に思う間もなかった。 だが、友人に指摘されたことでゆっくり考える時間ができ、そして気付いてしまったのだ。 私は青峰が好きだということに。 いつからだったのか、今考えてみても分からない。 まあ、とにかく、その時まざまざと青峰が好きだと自覚してしまった私だったが、告白なんてものはしなかった。 その時告白すれば何か変わったのかもしれなかったが、私は青峰の恋人になるよりも共にバスケでをする事を選んだ。 今でもその選択は後悔していない。 だけど、一つ変わった事と言えば頭を撫でられた時の心臓の高鳴りがなかなか静まらなくなったことだった。 そのドキドキを消すために必死でバスケに打ち込んだ。 そうして、私と青峰とテツはそれぞれ女バス、男バスのレギュラーとなった。 だけど、異変はすぐ現れた。 大会が近くなって、疲れすぎるのはよくないからと自主練を赤司くんに止められてから数日後。 「え?青峰?見てないけど」 「そうですか、すみません」 「青峰、練習いないの?」 「はい」 少し息を切らせたテツが目を伏せた。 今日は特に追試の連絡もなかったこと、あいつは掃除当番でもないことはテツに告げなかった。 そうして、知らないフリをしたんだ。 「同じクラスの名字さんなら何か知っているかと思ったんですが…」 「ごめん、力になれなくて…」 「いえ…」 踵を返すテツの背中は、なんだかとても小さかった。 それから数日後、青峰がサボりで厳しく注意を受けたというニュースが女バス内を騒がせた。 バスケが大好きで私を通じ女バスともよく絡んでいた青峰のバスケにかける情熱は彼女達もよく知っていたから。 私は一足先にテツから事の次第を聞いていたので、特に驚くことも騒ぐこともしなかった。 それよりも、心配だった。 青峰のバスケにかける情熱を一番知っているのは自分だと自負していたから。 だから、よく昼休みに青峰に声をかけて1on1をしてもらった。 その時の青峰は昔と全然変わってなくて、少し安心した。 青峰はとても強くなっていたけれど、私は元々一度も青峰に勝ったことがなかったから、強すぎると思いながらも諦めることなく只管ボールと青峰を追いかけた。 だけど、いつしかだりーからまたな、と返事をされるようになり始めた。 確か最初は、夏休みの間の男女合同練習の合間だったと思う。 その時は代わりに黄瀬くんが付き合ってくれたけど、彼の変化をまざまざと知って家に帰ってから泣いた。 そして全中が終わる頃には、彼との距離はかなり遠くなってしまった。 あの噂を聞いたのも、丁度その頃だ。 「青峰くん、桃井さんと付き合ってるらしいよ」 その時の絶望は言葉では表現できない。 ただ、目の前が真っ白になった。 あの青峰にそんな相手がいるとも思っていなかったから… 後々聞いてみれば彼女は青峰の幼馴染で男バスのマネージャー。 桃井さんを初めてその人と認識して見たとき、こんな綺麗な幼馴染がいるなら私の事なんて眼中にも入ってないんだろうなぁと思った。 その噂を聞いた日も、私は一人家で泣いた。 それからは同じクラスでも青峰と話すことは殆どなくなって、ただぼんやりした彼の目を見るのがとても辛かった。 もう、彼と関わることは二度とない。 そう思っていた。 だけど、それは唐突に訪れた。 冬の公式戦、相手チームの人との接触がもとで、私の膝はダメになった。 つまり、選手生命を絶たれたというわけだ。 黒子や赤司くん、黄瀬くんに女バスのみんなは何度もお見舞いに来てくれた。 だけど、私の心が晴れることはなかった… そして、女バスに退部届けを出したその日。 昇降口に行くと、柱に寄りかかった青峰がいた。 「よお」 覇気のないその声を聞くだけで悲しかった。 けれど、久しぶりの会話に少し胸が弾んだのも事実だった。 「ちょっと付き合え」 そう言われ、無理やり彼に手を引かれて連れていかれた彼の家で私達は初めて身体の関係を持った。 青峰にすればただの性欲処理だったのかもしれない。 けれど、私の心の中はごちゃごちゃだった。 バスケができなくなって、青峰に抱かれて、わけが分からなかった。 悲しかったし、悔しかったし、憎かったし、嬉しかった。 だからどうしていいか分からなかったというのはただの言い訳だ。 それからその関係は、一度では終わることなく定期的に続いた。 いいはずがないことくらい、分かっていた。 彼の行動は世間から言わせれば浮気というものに他ならないし、中学生で性交をするなどいけないことくらいは分かっていたから。 けれど、彼に必要とされたかった。 バスケを失った私にとって、彼の存在だけが救いだったから。 それでも背徳感が私の精神を侵食する。 快感が解き放たれれば虚しさだけが残り、けれど彼の家から出れば彼が恋しくなって、これで終わりにしようと思いながら、また彼に会って抱かれて… 悪循環だった。 だから、私は彼から離れるための決心をした。 時々連絡をとっていたテツの誘いで、高校は誠凛に決めたのだ。 その時、青峰には既に桐皇に進学を決めていたから。 そうして、本当に本当に彼と接触した最後の日。 彼はこれまでにないほど優しく私を抱いて、耳元で好きだと呟いた。 ああ、彼女と何かあったのかなと快感の中でぼんやりと思った。 その甘い言葉に騙されて彼について行こうかとも思ったけれど、やめた。 あの時、私は彼の友人でいることを選んだのだから、と。 こんな歪な関係を終わらせなければならないと。 行為のあと、まだ幼さの残る顔で眠る彼の額に一つキスを落として私は彼の部屋を出た。 貴方に抱かれて、私は辛かったのだろうか。 いや、そんなことはない。 私は貴方に必要とされて幸せだった。 最後に偽りの優しさをありがとう。 その優しさをくれた彼にまた恋心を募らせて、彼の家から出た。 もしもう一度、貴方と会うことがあったならそしたら次は友達として、久しぶりと言おう。 元気だった?と手を振って駆け寄ろう。 あの時のことは何にも気にしてないよ、と笑おう。 そしてもう一度友達としてよろしく、と手を差し出そう。 幸せだったあの頃の流行り歌の歌詞が耳を通り抜けていく。 そして気がつけば私は、泣きながら彼との思い出を思い出していた。 友情青春歌 次会ったら、その時はまた友達としてあの頃のような笑顔を私にください。 |