今日、日直の私は放課後の教室で学級日誌を書いている。時間割りなどの空白を埋めるだけの簡単な作業に私はぼけ−っとしていた。それに加え教室には誰もおらず緊張感もない。

「〜〜〜〜♪」

私はいつしか歌を口ずさんでいた。小さい頃から歌うのが好きで、歌うことは癖といってもいい。ただ好きこそ物の上手なれとはいかず、実力はといえば音痴ではないが上手でもない。

「〜〜〜〜♪」

そういえばこれは何の歌だっただろう。最近CMでよく聞くが、サビ以外は全く知らない。歌うのは好きなのに、音楽情報に無頓着なのには自分でも違和感がある。

“ガタッ”

「あ…っ。」

ドアの方から物音がし、続いて人の声がした。私はぼけ−っとしていたところに突然の物音で肩がビクッと跳ねた。ドアの方を見ると、そこに居た古里君と目が合った。

「…………。」

「…………。」

お互いに沈黙。気まずい。1人だったことに油断して陽気に歌を歌っていたのを聞かれてしまった私、そんな私を見てマズいことをしたと固まる古里君。

「ご、ごめん。」

古里君は視線を外し謝って来た。謝られても気まずい。むしろ古里君の純粋すぎる申し訳ない雰囲気で気まずさがより増した気がする。

「気にしないで。どっちかっていうと私が悪いし。」

「いや、僕が悪いんだ。その…日直なのすっかり忘れてて、名字さん1人にやらせちゃって。ごめんなさい!」

私は“油断して歌っていた私が悪かった”という意味で言ったのだが、古里君の言い分は違った。

「あっ…何だ、そっちか。いいよ。だって古里君は転校してきたばかりだから、分かってないだろうなって思ったけど声掛けなかったの私だし。」

「言ってくれたら良かったのに。」

「でも日直の仕事って1人でも十分だし、私って放課後もこの通り暇人だし。気にしないで。」

実際、日直の仕事は苦ではなかった。古里君に声を掛けなかったのは、話し掛け方が分からなかったから諦めたのだけど。古里君は大半オドオドしていて、いつもケガが耐えない。声を掛けたとしてハッキリ意思表示が出来るのかとか、会話は成り立つのかとか、私は今この時だって古里君とどう接したらいいのか悩んでいる。