「今日も爆発した…。」

名字さんは朝の教室でいつも憎々しげにそう言う。水滴が落ちるショ−トヘア−には片方だけ鬣のような寝癖が付いていて、それを手で押さえつけて直すのに必死という様子。

「名字さん、また水道で水を被って来たんですか?ちゃんと乾かさないと風邪をひきますよ。」

「いいの!濡れてる方がマシだから!」

水分を拭く気さえない名字さんはいつもタオルを持って来ていない。見かねた僕が部活用のタオルで髪を拭く。ほぼ毎日の出来事に、今では余分にタオルを持って来ているくらいだ。

「やめてよ!ハネたらどうしてくれる!」

「風邪をひくよりマシです。」

自分の席に座っている名字さんの後ろに立ち、髪をタオルでワシャワシャと撫でる。粗方水分の取れた髪を手櫛ですくと寝癖など感じない髪型になる。

「お節介。」

「文句を言う割に止めませんよね。」

「そ、それは最初嫌がった時に振り払おうとした手が黒子君にぶつかって申し訳なかったから…。」

初めは髪がびしょ濡れの名字さんを見てイジメられている可能性もあるのではないかと慎重に事情を聞いてみたところ、寝癖が直らず最終手段で学校の水道で水を被っていると分かった。それでも気になって髪を拭こうとしたら拒まれ、顔面にパンチをくらったことは印象的に記憶に残っている。

「あれは痛かったです。」

「いつまで引きずるの!?謝ったんだから私のことなんて放っておいてよ。」

“タオル、部活で必要でしょ?”と、名字さんは唇を尖らせる。そう思うなら自分で持って来て欲しいものだ。

「ですが、ずぶ濡れの子猫が居たら拭いてあげたくなりませんか?」

「なりますね。でも私は子猫じゃないので。」

「ライオンは猫科なんですよ。」

「どういう意味だ!」

さっきまで鬣の様にハネていた髪をペタペタ撫でていると、名字さんが顔だけ振り返ってキッと睨んで来た。自分も寝癖が酷いので、名字さんの気持ちは分からなくもない。それに名字さんは女の子だから、僕より気にしているのだろう。多少の共感もあって名字さんに協力してあげたくなった。