久々のお出かけということで海にやって参りました!



「でーもさぁ、夜に来なくても良かったんじゃね?」



真っ暗な海を目の前にしてはしゃぐ名前を面白そうに眺めながらそう言う縢。まぁ、確かに彼の言葉は正論である。



「夜だと静かだからね。」



彼女はそう言って砂浜に腰を降ろす。縢もつられて彼女の隣に座った。真っ暗な海の上にはキラキラと星が輝いている。海の潮風が二人を包み込む。ザーザーという静かな波の音だけが今の世界を支配していた。



「なーんか、真っ暗だよなぁ。まるで俺の夢みたい。」



ボーっと前方にある海を眺めながら縢がそう言う。名前は砂浜に落書きしながら口を開く。



「秀星は普段こんな夢見てるの?」

「いや、基本あんまり見ねーけど。見たとしても真っ暗な世界だけだし。」



それはまた退屈な夢だ、と名前が思っていると、落書きをしていたところへ波がやって来た。その波は彼女の落書きを跡形もなく消し去っていく。



「あーあー、消えちゃった。」



ションボリと言う名前に構うのが面倒なのか縢は欠伸をした。



「ふぁ〜。」

「やっぱり眠い?」



名前が再度落書きをしながら彼に尋ねると、縢は眠い目を擦りながら答えた。



「あったり前じゃん。今何時だと思ってんだよ。」



そう、彼は寝ているところを無理矢理名前に叩き起こされたのだ。眠いに決まっている。しかし名前はニッコリ微笑んだ。



「えへへ。寝起きの秀星って可愛い。」




突然彼女がその様なことを言い出したものだから縢は驚いて目を見開く。一瞬だけ眠気が飛んだ。彼女は言葉を続ける。



「秀星の真っ暗な夢はきっと変わるよ。」



またもや続けざまに衝撃的なことを言われた縢は、彼女の言っている意味が分からず首を傾げた。そんな彼に名前は微笑んで空を指差す。



「ほら。」



彼女の指先につられて目線を上げると先程まで散らばっていた筈の星が消えていた。代わりにうっすらと赤紫の空になっていた。日の出まではもう少し時間があるだろうが、その空は確かに朝の訪れを示している。



「きっと秀星の夢は輝くよ。」



名前が得意気に言うのを縢は疑うこともできなかった。心に響いたその言葉を脳裏で繰り返していると、隣の彼女が「できた!」と声をあげる。



朝日が上り始めたこともあって名前の落書きを見ることができた縢は思わず口元を緩ませてしまう。



そこには“秀星、愛してる!”と書かれていた。先程まで彼女はその指先で愛を描いていたのだ。



「名前も可愛すぎるっつーの。」



彼はそう言ってギュッと名前に抱きついて、その肩に頭をもたれさせる。名前は顔を染めながらも彼に見られていないことでどこかホッとした。縢のオレンジの髪が朝日に浴びるのを見つめながら名前が口を開く。



「帰って一眠りする?」



彼女の言葉通り縢はとても眠かった。しかし、



「いや、ここで寝る。名前がいてくれたらきっと夢も輝くだろーし。」



彼はそう言って、まるで抱き枕を抱き締める様に名前を抱き締めるとスヤスヤと眠りにつきはじめる。名前はそんな縢のオレンジの髪をそっと撫でた。キラキラとした夢が見れることを願いながら。




夜明けに紡ぐ途絶えた夢物語






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リーブラの思慕様に提出。素敵な企画に参加させて頂きました。ありがとうございました。