夕刻から降り出した雨が、雨足を強くしてきた深夜、佐和山城の一室。そこには、城主である三成とその妻である名前の姿があった。
三成は文書を完成させるために、深夜まで筆をもっていた。
名前は、机に向かっている三成の背に寄りかかるようにしながら、緩く抱きしめてうとうとしていた。

「名前、もういい加減に寝ろ。身体に悪い」
「ん…いやです。三成さまも共に眠って下さるまでこうしています」
「俺もこれを書き終えたら寝る、だから先に…」
名前は言葉を遮るように三成の唇に、その白い指をあてた。
「三成さまはそう仰って昨日だって明け方までお仕事していらっしゃったではないですか。…信用できません」
きっぱり言い切った名前の言葉にため息をついた。名前は、言い出したらきかない性格であることを知っている三成は観念し、筆を置いた。
名前が三成に腕をまわしていた体勢を解くと、それと同時に三成は振り返り、名前を腕の中に閉じ込めた。

「三成さま、眠ってくださる気になったのですか?」
「……いや、」
名前が嬉しそうに問うた質問の答えは曖昧で、名前は首を傾げた。

「そのつもりだったが…眠れそうにない」

蝋燭の灯りのせいなのか、そうでないのか、三成の頬は少し、赤みを帯びているように見えた。
「ふふ、そういうことでしたらお付き合いいたします」

三成は触れるだけの口づけを落とした。



企画 リーブラの思慕 様に提出


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