真っ青で雲ひとつない空の下、誰かの背中をひしと見据えて追いかける。あれは、一体誰なんだろう。
誰かのポニーテールのように結った髪が風に吹かれてさらさら揺れる。ああ、綺麗だなあ。追いかけながらわたしはそう思う。女の子なのかな、どうやったらそんな風に綺麗な髪になるんだろう。

神崎!待ってよ!」
「いやだ!」
「なんでよ!」

ぽんと口をついてでたそれ。いま、わたし誰の名前を呼んだんだろう。ちゃんと自分の口から出た言葉のはずなのにモザイクがかかったみたいに聞こえなかった。
というか誰かは男の子だった。なんでそんな髪伸ばしてるんだろう。まるで昔の人みたい。そういえば服装もなんか忍者っぽい。

「ほら、名前見ろ!」

やっと止まった誰かが振り向く。きらきらした太陽の逆光に照らされて、誰かの顔は綺麗に口元しか見えない。
眩しいなあ。呟きながら目を細めて誰かの指差すほうを見る。きらきらする水に七色に光る橋。

「・・・虹だあ」
「綺麗だろ!」

轟々音をたてて流れる滝。そこにかかるように虹が出ている。マイナスイオンが出ているのかさっきまで火照るように暑かった体がすーっと冷たくなっていく。水しぶきが心地良い。

「すごい・・・これ、いつ見つけたの?」
「この前迷子になったときかなあ。すごいだろ」

にっかりと(口元しかわかんないけど)笑う誰かに笑いかける。

「すごい、すごいよ神崎
「ああ、すごいだろ!」

うわあ、とか、すごいしか出てこない口。そのたびに誰かは楽しそうに笑いながら相槌を打ってくれる。きらきら、水しぶきが光る。きらきらきらきら。






「っていう夢を見たんだ」
「そんな滝、現代にあるのか?」
「さあ。夢だし」

ぐでーんとした次屋がそんなとこあるんなら行きてーと呟く。同感。
富松が「暑いからそんな夢見たんじゃね?」と笑いながら麦茶を飲む。ああ、そうかもなあ。

「じゃあ、今から行くか?」
「どこに?」
「滝を見に」

楽しそうに笑いながら言う神崎が、夢の中の誰かと被った気がした。