「石田君、プリント書き終わった?」

名前は後ろの席の石田三成にそう問いかける。

「もう少し待て。あと少しで書き終わる。」

名前の顔を見ず、プリントを見たまま三成はそう答えた。

「…分かった。」

名前は前に向き直り、己のプリントを見返す。

これから提出するプリントは授業中に出された日本史の課題プリントだった。

時代は各大名が天下を目指した世―――そう、戦国時代のものだった。

名前はそのプリントを解く時、違和感を感じていた。

普段から歴史が好きだった名前にとって、さほど難しいものではない訳で、それは後ろの席の石田三成にも言えるはずのことだった。

彼は全国模試で上位に毎回入る人間なのだから。

そんな彼が普通以上に時間をかけて問題を解いていた。

私でも簡単に解けるのに?

そんな名前が感じたのは戦国時代のある時期以降、まるで自分が体感したかのように事細かに“知っている”

何故だろう、と思いながら名前は解答欄に記入していったのだった。

今、改めて見直すとうちのクラスはやけに戦国武将の名前の人間が多いのではないか。

後ろの石田君も名前は石田三成だし、彼の幼なじみの加藤清正や福島正則、担任の島左近先生も含め、一体何人同姓同名の人間がこのクラスに集まっているだろう。

考えれば考えるほど目が回る。

「………、……い!聞いているのか、名字!」

「え……、あ…うん。」

後ろの石田君からプリントを受けとり前に回す。

先ほど考えていた事が、まだ頭の中を廻っている。

今日の授業は終わりだ、という北条先生の声を最後に名前はぷつりと意識を失ってしまった。

名前は気が付くと見知らぬ館にいた。

私に被さる様に、もう一人の私が居た。

「お前は俺の隣に居ろ。」

そう言い私の頭をぽん、と撫でられ其方に顔を向けるとそこには石田君の姿があった。

いや…、



「何か言い残すことはおありかな?」

中年の男がそう言う。

その男のマントに刺繍されるのは葵の紋。

私は拘束されており、身動きすらままならない。

「“    ”」

何かを自分は言い、目を瞑る。

…ざしゅ、という生々しい音ともに名前は勢いよく目を覚ました。

「目を覚ましたか、名前。」

一番最初に視界に飛び込んだのは石田君

…いや、違う。

彼は私を名前で呼ばない。

「授業終了と同時に倒れた。」

覚えているか?と…。

「………、三成。」

名前は聞こえるか聞こえないかのか細い声で、そう言った。

「……!思い出したのか!?」

その声を三成は聞き逃さず、一瞬瞠目したあとすぐに問いただした。

「………っ、はい。」

そうだ、私は三成と共に関ヶ原で戦った。

西軍は負けて、私も………

「俺は、あの時お前に伝えられなかった。」

そこで言葉をきり、俯き泣く名前の顔を上げさせる。

「おや?名前さんも思い出したんですかい。」

三成が再び言葉を紡ごうとした時に横槍が入った。

「左近、貴様……」

正に鬼の形相だ。

「おっと、間の悪い時に来てしまったようですね。」

左近はその様子に苦笑いをする。

名前はその様子を見てくすり、と笑った。

昔から変わらなかったんだ。




(三成はどうしてあんなに日本史で悩んでいたの?)

(あの狸の名前を解答欄に書くのが癪だっただけだ。)