いやいやいや!明らかにおかしい!どうして修学旅行のバス席がくじ引きで決められなければならないのだ!という名前の叫びは虚しく消えてゆく。
学園生活最大の思い出作りになる修学旅行はバス席が重要になる。ノリの良い友達となれば盛り上がるが、気まずい相手となれば始終無言で眠ることしかできない。そして今回名前は後者となってしまった。しかも相手が酷い。
『隣の席が跡部君だなんて…。』
四六時中ナルシストな彼が隣なんて疲れてしまうではないか。大体喋ったこともないのに。というか女性陣の視線が痛い。
名前は溜め息をつきながらバス席に座る。跡部は既に奥の席に着いていて窓際から景色を眺めている。せめて窓際に座りたかった、と思う名前。窓際ならば視線のやり場に困らないのに。
バスが出発する中、他の生徒は運が良かったのかワイワイ盛り上がっている。その中で名前は握り締めた掌を見つめていた。
(…何か喋るべき?)
しかし喋る話題など何もない。テニスは無知だし、勉強の話は修学旅行にするものではない。昔話をするほど仲良くもないし、普段の生活は噂で大体知っている。趣味や好きなものを尋ねるのもベタな気がする。
名前が内心焦りながらチラリと跡部を見た瞬間、彼女は固まった。何故なら景色を眺めていた筈の跡部は窓際に頬杖をついたまま視線だけを名前に向けていたからだ。
『「っ!」』
二人は目が合った瞬間慌てて顔を逸らす。先程の魅惑的な視線は何だったのか。名前がドキドキしながら疑問に思っていると、
「名前…って呼んでもいいか?」
と声をかけられた。勿論隣に座る跡部からだ。名前が驚いて彼を見るが、彼は今度は景色を眺めていた。その頬が若干赤く見えるのは目の錯覚だろうか?
『う、うん。全然いいよ。』
まさか話しかけられるなんて。そう驚きながら名前が慌てて答えると跡部は口を開く。
「初めて喋ったな。」
その言葉に名前はまたもや驚く。彼は人気者でよく女性陣に囲まれているのを見かける。そういう状況にいながら誰と面識があるや否やということを彼は覚えているのだ。名前はそれがなんだか嬉しかった。
『そうだね。』と頷く彼女を横目で見つめる跡部もどこか嬉しそうで。
「名前の好きなものって何だ?」
ベタな質問を投げ掛ける跡部を見て名前はようやく気づいた。彼も何か話題を欲しがっていたことに。隣に座る相手と向き合おうとしていたことに。
それが嬉しくて名前はその質問に答えた。そのあとも質問は続いた。それは少しずつ会話になっていく。ぎこちなかったがそれでも楽しかった。
しかし、修学旅行の朝は早いということもあり、名前は次第に眠気に襲われる。窓際なら凭れて寝ることができるんだけど、と思っていると、跡部は眠そうな彼女に声をかけた。
「眠いなら俺様に凭れてろ。」 『え!?いや、それは跡部君に悪い、』 「いいから気にすんな。」
予想外の言葉にあわてふためきながら拒否しようとした名前の頭を無理矢理自身の肩に寄せる跡部。突然の飛躍的な行動に驚く名前。無性にドキドキしてしまうが眠気には逆らえない。
『ありがとう、跡部君。優しいね。』
彼の肩に凭れて瞼を閉じる名前はそう言う。この気持ちはもしかしたら…、と名前は自身の気持ちを考えていたが、バスに揺られてすぐに眠ってしまった。
一方、跡部は自分から行動しておきながら少しドキドキしていた。密着した体と彼女の寝顔を意識してしまう。彼女の言葉も素直に嬉しいと感じた。あぁ、これはきっと…。
初めての感情を知った二人は互いに互いが隣同士で良かったと思っていた。
隣に座った子
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リーブラの思慕様に提出。素敵な企画に参加させて頂きました。ありがとうございました。
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