※諸設定
・主人公は石田三成の双子の姉
・朝廷勤務の陰陽師

夏の日差しがジリジリと照りつける中、名前は自分の所に回ってきた書類をせっせと片付けていた。

いくら現在大阪城に滞在していようと、名前は陰陽寮頭を務めている為どうしても其方から仕事が回ってくる。

そんな彼女に声をかける者が居た。

「いたいた、名前殿!」

「半兵衛殿?」

チリーンと青銅製の風鈴の音が涼しげに鳴る。

風鈴という名は鎌倉末期に付けられたもので、元々は風鐸と呼ばれるものだった。

暑気払いの器具として室町時代以降、庶民の間で定着し始めたものだ。(現在よく見る硝子製は江戸時代末期頃に流行した。)

魔除けの意味もあり、名前は縁側に吊していた。

そんな涼しげな音ともに現れたのは豊臣軍、軍師の竹中半兵衛だった。

「私に何か用でしょうか?」

「うん。名前殿と甘味が食べたいなぁ〜、と思って。」

ニコニコと笑みを浮かべながらそう言った。

「私と、ですか?」

天才軍師と呼ばれる彼が何故、自分に声をかけるのか…理由が見当たらない為名前は少し困惑した表情を浮かべた。

その様子を見た半兵衛は苦笑いしながら口を開いた。

「この間のお礼を、と思ったんだけど…駄目かな?」

こてん、と首を傾けてそう言った。

その様が年齢に合わず可愛らしいと名前は思った。

本人に言うと怒られる為、口には出さないが…。

こう見えても、この青年はもう三十路近くだ。

にしても、この間のお礼……か。

「……分かりました。支度して来ますので門の方でお待ち下さい。」

「じゃあ、待ってるね。」

手を降ると、半兵衛は名前の部屋を後にした。

■ □ ■ □ ■ □

待ち合わせ場所まで行くと腕を組み、門に寄りかかる半兵衛殿の姿が見えた。

「すみません、お待たせしました。」

名前は小走りでそこまで行った。

「ううん、だいじょーぶ!それより、俺名前殿の小袖姿初めて見るなぁ…。」

「普段は仕事上、直衣(のうし)が多いですからね。」

名前は苦笑しながらそう言った。

「じゃあ、行こうか。」

「はい。」

二人が訪れたのは太閤殿が築き上げた城下町…つまりは大阪城のお膝元。この町は様々な物流が行われている為日ノ本の島国の中でも盛んな町の一つに数えられる。

「お待ち遠様です。」

女将がそう言い、テーブルに置いたのは二つの餡蜜だった。

「此処の餡蜜凄い美味しいんだよねー。」

半兵衛殿はパクリと一口運んだ。

名前もつられて一口食べる。

「…、美味しいですね。」

「でしょ?」

名前殿には本当に感謝してるんだ〜

半兵衛殿は言葉を続ける。

「不治の病と言われていた労咳を陰陽術で治してくれたからね。」

「お礼を言うなら私の式神に言って下さい。」

名前は己の式神の力を借りて、この軍師の病を治した。

本来であったら既に散っていたかもしれないその命。

「でも判断を下したのは名前殿な訳でしょ?それなら、俺にとっての恩人は名前殿だよ。」

彼は静かに微笑みそう言った。

「……そうですか。」

「さてと、御馳走様。にしても、この状況って逢い引きになるのかな?」

「え。」

突然言われたその言葉に名前は思わず固まった。

「冗談だよ、冗談。」

この軍師の冗談は、あまり冗談ではないからなんとも言えない。

デートではなかったのだけど、同じ意味だった。


(逢い引き=デート)