名前。アイツの名前は名前だ。苗字は知らない、名前しか知らない。
喋った事もねぇからアイツの性格とか声もあんまわかんねぇけどなんか気になる。

気になるっていう理由は好意を持っているからかは知らねぇけどただ眺めてたい。

名前は窓側の前から三番目。俺は一番後ろの真ん中。眺めるには絶好な場所だ。




「ねー、アヤトって名前ちゃんの事が好きなのー?」

「いや別に…、好きっつーかただ気になるんだよな。」




ライトがからかうような口調で言ってきたが別にそういうのでは無い、と思う。
でも最近不思議なんだよな、つまらなくてモノクロにしか見えなかった教室の風景とか人間とかなんだが、最近は名前と名前の周りだけ色が付いてる。カラー付きテレビみたいな感覚だな。



ただただ名前を見ている日々を繰り返して繰り返して、繰り返しすぎていつしかと話をしてみたくなった。
でも初対面と言っても等しいくらいの人間にどうやって話し掛ければ良いんだろうか。…やっぱりライトくらいだな、こういうのは。





「え?初対面の女の子に話し掛ける方法?方法かあ…僕は普通に話し掛けるから特には、ねえ。まあ基本の話し掛ける方法で良いんじゃない?"やあ、こんにちは。"みたいな。」

「…俺がそんな柄に見えるか。」

「…見え、ないね。困ったなー…え。というかアヤトってやっぱり名前ちゃんが…。」

「ばっ、ち、ちげェよ!つーか誰が名前だって言った!苗字も知らねェような女に誰が…。」

「名前ちゃんの苗字は名字ちゃんだよ。そっかーアヤトがついに恋か…って、アヤトはこれが初恋なんじゃない?」

「だからちげェって…。」





名前の苗字、名字って言うんだな。初めて知った。
つーか初恋ってなんだよ初恋って。俺が?有り得ねえ。本気で有り得ねえ。



俺はただ、名前が気になるだけだ。それ以外の理由があるわけ、ない。