「おい」

『え、何?』

「……やっぱり何でもねぇ」


昨日も、一昨日もダメで、今日こそはって思っていたが、やっぱり今日もダメだった。話かける事はできても、あいつを目の前にすると何にも言えなくなる。ただ一言言えば良いだけなのにな。


「はぁ、」

「どうしたの?獄寺くん」

「あ、いえっ。何でもないっスよ!」


10代目に隠し事するなんて気が引けるがこれは仕方がない。こんな事言えるワケがねぇしよ。それに、これは俺の問題だ。

俺は10代目に笑顔を向け「今日は失礼します!」と言い帰路へとはいった。


つっても、家にいたって暇だ。少し公園にでも行って時間つぶすとするか。


***


『あれ?獄寺くん?』

「っ!?」


公園のベンチに座りタバコをふかしていたら今考えていた声の持ち主に名前を呼ばれとっさに振り返る。し、私服……っ、


『ごめんね。驚かすつもりはなかったんたけど』

「……何でテメェがここにいるんだよ」


確かこいつの家、正反対にあるよな?いや、別に知りたくて後付けたとかしてねぇからな!って俺は何言ってんだ!


『えへへ。お使い頼まれたんだ!』

「……」

『でもね、私方向音痴なの』

「…あ?」

『迷子になっちゃった!』


胸張って言うものじゃねーってのに、しかも嬉しそうに笑っていやがる。やっぱりこいつ、よくわかんねーや。でもそこにひかれるんだよな、俺。


「ったく」


仕方ねぇな。
手に持っている荷物を奪って歩き出す。…ただ暇だから送ってやるだけだからな!


『…え?』

「……なんだよ」

『ううん、ありがとう。獄寺くん』





そう言って彼女は微笑んだ。




(っ、)(獄寺くん?)(う、うるせぇ!)(顔真っ赤だよ?)(気のせいだ!)


今なら、言えそうだな。

──でも、
今はこの時間を大切にしてぇ。



fin