知らない場所なのにどこか懐かしいような気がして辺りを見渡すと、緑色の髪をした幼い男の子が私を見付けて笑顔で駆け寄って来た。目の前に立った男の子と目線がバッチリ合った事で自分も幼いのだと認識した。

(あぁ、夢か。高校生だもんな、私。)

どこかに残るハッキリとした思考回路が冷静な分析をする。目の前の幼い男の子は、幼なじみの緑間真太郎だろう。まだ眼鏡を掛けていない真太郎の瞳が私をじっと見ている。

(真太郎のくせにかわいいな−!ちょっとは見習えよ、真太郎!!)

くりくりした瞳も、ぷくぷくした頬も、きらきらした無邪気な笑顔も、昔はよく見ていたのだろうが今の真太郎からは有り得なさ過ぎて本人に見せてやりたくなった。

「名前ちゃん!すき!」

まだ“なのだよ”なんて変な語尾も付いていないたどたどしい喋り方で言われて、私は頬にキスをされた。どうせ夢だし真太郎はかわいいしで、ほのぼのした気持ちになった私はぎゅうっと真太郎に抱き付いた。

「わたしもすき!真太郎くん!」

懐かしい君付けの呼び方が自然と出た。ふわふわとした夢独特の世界観が心地良い。

「名前、ちゃんと見ろ。」

次に耳に入って来たのは、遠い記憶よりももっと聞き慣れた声で、幼児の声よりはるかに低く男らしい物だった。

「えぇっ、真太郎!?」

抱き付いていた腕を解いて見上げた先に居たのは、現実と変わらない体格で高校の制服を着た緑間真太郎だった。自分もいつの間にか現実と同じ体格になり高校の制服姿になっている。

「名前……。」

真面目な瞳をした真太郎が、私の名前を呼んで顔を近付けて来た。逃げようにも肩を掴まれている上に、視線が私を捉えて動けない。

(いや―――――!!!!)

声にならなかった叫びと共に、私の目が開いた。キョロキョロと辺りを見渡すと自分の部屋で、自分の姿を見ると普段通りのパジャマ姿だった。どうやら現実の世界のようだ。

「うわ−……目覚め最悪…。」

鮮明に残る夢の記憶を振り払いながらベッドから降りた。ふと目に入った鏡には赤い顔の自分が映っている。

「いや、ないから。今の真太郎なんて好きじゃないから。ていうか夢だから。」

こんな夢を見せた自分の脳を恨んだ。前半だけで良かった、後半いらない。あえてもう一度言おう、後半いらない。夢を否定する事ばかり頭の中で反復しながら学校へ行く支度をした。