過去原稿 | ナノ


8.  



 動物園に向かう気分だ。そんな場所に足を運んだことはないが、きっと気分の高揚感はこれと似ているに違いない。重々しい鉄扉を挟む無口な同僚二人と、そのそばにしゃがみ込む妹分。疲労がありありと見て取れた。
 俺を目端で捉えながらも同僚たちは声をかけることすらしない。小さくひらりと手を振るが、無表情のまま奴らは小さく頭を下げるだけ。ロボットかよと苦笑する。人間味にかける奴らだ。研究室に配属された俺と、完璧に武闘派なこいつら。波長が合わないのは仕方のないことではある。
 そんなことをうだうだと考えながら、眉間を人差し指で押し続けている彼女の肩を優しく叩いた。疲れ切った瞳が俺を捉える。
「お疲れ、お手柄だったらしいな」
 そのまま頭をくしゃりと撫でれば、彼女は眉間の皺を濃くさせるが、本気の抵抗は見せない。
「お手柄ってほどじゃない」
「でも、この件はお前に一任されてる。そうだろ?」
「指示は出たけどね。面倒事はお前がやれって、そんな態度」
「そう言うな、期待されてるってことだよ」
 会話をしながら彼女の隣に胡坐をかく。彼女の手に渡った睡眠薬は俺の発明品だ。殺しはしない優しい薬。百年の眠りにつかせることはできないが、それでも十分な期間眠りにつかせることが出来る。まさか本当に使う日が来るとは思っていなかったが。眠らせるくらいなら殺したって同じだと考えそうなものだ。
 恐らくその妥協点を見出したのはリアナだろう。上の連中の頭がそんな考えに向かうとは思えない。上に意見できる根性を、彼女はどこでつけてきたのだろう。
「兄さんは何をしに?」
「発明品の成果が気になるのは研究者の性だろ?」
 リアナの隣で立ち上がる。何かを言いかけた彼女を気にすることなく、ロボットに挟まれた鉄を押し開けた。
 そして、俺がそこに見たのは、一人の女が横たわる姿だった。

[ prev | index | next ]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -