過去原稿 | ナノ


7.  



 午前八時四十三分。
 胸に飾られた花をそっと指先で撫でる。かさり、本物ではないそれが音を出す。乾いた音だった。性別を偽り続けたこの服とも、彼女は今日でお別れだ。
「相澤雪」
「更月綺」
「藤崎悠哉」
「弘瀬俊輔」
 それぞれの名を呼び終えると、西川はいつものように快活な笑みを見せ、はっきりと言った。
「卒業、おめでとう」
 ぼろり、自然と彼の瞳から雫が流れ落ちる。スーツに包まれた逞しい腕を思わず目元にあてがった。今日、ついに、この子たちは卒業してしまうのだ。
「健ちゃん泣かないでー」
 困ったように、どこか泣きそうに。西川の背中を優しく撫でる雪。その隣では、綺が綺麗なハンカチを彼に向けておずおずと差し出していた。
「遊びに来るからさっ」
 元気に笑う悠哉。その目が潤んでいたのは、西川の見間違いなんかではない。一歩後ろで、俊輔がゆっくりと頷いていた。悲しそうな表情ではなく、心なしか彼は嬉しそうに。
 雪が、空に向けてはっきりと言い放つ。綺麗な青空。快晴だ。
「笑顔屋全員、今日をもってこの学校を卒業します!」


――これは、物語を紡ぎ続けた者たちに訪れる、近い未来のお話。


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