思い出は極彩色 [しおりを挟む] 時は過ぎ去ってしまう。捕まえることはできない。留まることもできない。いくら抵抗しても、無駄なんだってこと、わかっているのに。 それでも、精一杯抵抗して、今を永遠と続けたいと、そう願ってしまうのは罪ですか? 「芽衣、帰らないん?」 「もう少しだけ、待ってね」 ピンク、次はオレンジ、そうだ、水色も似合うかも。じゃあ、ここはどうしよう。緑、あとは黄色? そんな風にペンを選びながら、どんどんと白に色を加えていく。鮮やかになってゆく、それ。縁取ったり、ちょっとしたイラストを描いたり、華やかにしていくのは、とても楽しい。 「あとどんくらい?」 「もうちょっと、だよ、ん、これでいいかな?」 シンプルな黒と白のストライプ。そのカバーを被ったスマートフォンをいじっていた彼女は、私が見せた手紙にちらりと目を通した。 「良いと思う、お疲れさん」 「良かったぁ、待たせちゃってごめんね」 「ごめんじゃなくて?」 「ありがとう」 思わず、少し笑みを零した。何度か指摘されている、私の謝り癖。謝罪よりも感謝しろ、と、そう彼女に言われたのだ。 私の言葉に満足したのか、彼女はよく出来ました、と優しく頭を撫でてくれた。 「寂しくなる、なぁ」 明日は、卒業式。二年間一緒に活動してきた先輩方が、此処の生徒ではなくなる日。 先輩との思い出は、語りきれないほどにたくさんある。今までの日々が、きらきらと宝石のように光を放っていた。 「尊敬してたの、本当に、心の底から。私も、先輩みたいになりたいって思って。」 寂しいです、先輩。それが、本音。直接言ってしまいたくなるほど、その気持ちは大きくて。でも、追いつきたいから。大好きな先輩の背中を追って、私も前に進みたいから。 「寂しい?」 「ううん、寂しくない。追いつくもん」 大丈夫、寂しくなんてない。少しだけ、先にいるだけ。追いつけばいい、それだけ。だから、先輩。私たちは、笑顔で送り出しますね。そう、心の中で決めたのは、まだ肌寒い二月のこと。 [ prev | index | next ] |