7. [しおりを挟む] 「なぁ、千佳。」 久しぶりに呼ばれた、名前。小さく、返事を返した。啓は、頬を掻きながら、恥ずかしそうに言った。 「俺さ、やっぱり千佳は、幼馴染みなんだ。」 あの日、返された返事が、頭の中で録音されたテープを再生するかのように流れる。私が告白をした後、下を俯いて、少し悩んだように。 『ごめん、俺……。千佳のこと、そういう風に、見れない。』 悩んで悩んで、悩みぬいたんだと思う。それは、返事がどうこうという問題ではなく、言って関係が壊れるのを恐れて。私達は、常に一緒にいたから。 「だから、」 はっきりと、意志を決めた声で。啓は、私のことを真っ直ぐに見据えながら。 「俺は、千佳とは付き合えない。でも、俺はこれから先もずっと、年取っても、千佳と居たい。」 プロポーズ紛いな言葉だとしても、その言葉が意味するのは、“永遠の友達”。 「……うん。」 でも、それで充分だ。啓のことはまだ好き。今の言葉だって、ショックじゃなかったわけではない。でも、嬉しいとも思った。私は、啓という人間が好き。啓も、私という人間が好き。その好きが、恋愛対象としてか、友達としてかの違い。言い方は可笑しいが、相思相愛なのだと思う。 ただ、啓と居られればいい。あの楽しかった日常が手に入ればいい。それを真正面から受け止めるには、まだ時間が掛かるかもしれないけど。 「これからも宜しくね、啓。」 不器用な笑顔だったかもしれないけど、啓が笑い返してくれたから、大丈夫。 黒で覆われた空には、月の光に隠されることなく輝く星々が散らばっていた。 |