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ダイヤモンド
いっそのこと、と彼女は付け加えた。

「いっそのこと、ボイコットっていうのはどうかな。」

「…は?」

「もしかしたら先生も考え直してくれるかもしれない。」

「いや、サボリだって言われて終わるのがオチ。」

それにボイコットは一人でするものじゃない。

ため息を吐くと、里村は悲し気な寂しげな顔をした。こいつには何も関係は無いというのに。

終着点の無いこの会話は途端に途切れた。

放課後の部活動をしている人達の笑い声や掛け声や話し声が聞こえる。まるで、目に見えるような青春だ。

「もう良い。」




約10分前。

俺が部活から追い出された。校舎裏の水道で座り込んでいると、ここを通った里村と目があった。

クラスメートの女子。名前も部活も知らない。話したことも無い。

それくらいの認識しかなくて、すぐに目を逸らそうとしたけれど、その前に話しかけられた。


『…えっと、吹部のナントカくん。』


…こいつには、俺以下の認識しか無かったらしいが。

部活を追い出された、大雑把にぼかして話すと里村はふうん、と言って俺の少し近くの段差に座った。


そして現在に至る。里村は先程から色々案を出してくれているが、あまり意味は無い。俺に、意欲が無いのだから。

「とゆーか、何したら追い出されたの?」

「部長に食って掛かった。」

答える。

こっちを向いた瞳が、さっきとは打って変わって輝いているのが見える。今の発言のどのあたりにそんな要素があったんだろうか。

背中を壁に付けると、冷たい。西日を妨げた校舎は、人間より遥かに大きい影を創って、俺等を飲み込んだ。

桜の花びらはとうに散っている。

「良いね、格好いい。」

「その基準が分かんね。」

「何も言わないで黙ってるより、全然格好いいよ。」

笑った横顔を見る。

お世辞だとは分かっているから、等閑に「そりゃどーも」と返す。

夕方という時間は早く過ぎていく。西日が傾き始めたかと思えばすぐに、夜の帷が落ちる。

「帰らなくて良いのか?」

「部活行く予定だったんだけど、なんか座り込んでどんよりした姿を見たら話しかけちゃった。」

「どんより…。」

「でも、これがあれば誰もが元気になれる。」

里村は立ち上がった。見上げるように顔を見れば、次は正面の笑顔が目に焼き付く。

心配したから声をかけたらしい里村は、お人好しだと思う。でも、だからこそ今俺はそんなに気分を落とさずに居られるのかもしれない。

急にYシャツの後ろをぐいっと掴まれて、何かを入れられた。

「じゃあ、お姉さんは部活に行ってきまーす。」

唖然としながら見ると、手を無邪気に振る姿。微かに吹く風が、里村の前髪をふわりと靡かせる。

「お前…つか、お姉さんて…。」

「私、さっき一つ年取ったの。」

は?と言いかけた。それより先に里村がこっちに背を向けるから、反射的に立ち上がった。背中に違和感があるけど。

頭の中が整理される。
ということは、だ。

今日が誕生日?

俺の考えも気にすることなく、里村はスタコラ校舎の方へ歩いて行ってしまう。お人好しは、感謝の言葉すら要らないってのか。

「里村、助かった。」

その背中に言うと、驚いた顔がこちらを振り向いた。目を丸くしている。


「あと、誕生日おめでとう。」


その後、俺のYシャツと体の間から桜の花びらが出てきた。














これから輝く君に、大きなエールを。






Happy birthday to you!


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