灰色境界線 | ナノ



 君と初めて出会ったのは、桜咲く四月。
 麗らかな春、桜散る中、私達は初めて会話をしたね。



 中学二年の春、私はこの学校に転入してきた。
 見慣れない校舎に、綺麗な桜並木。青空に映える溢れるような桃色に目を奪われて、私は思わず足を止めた。
 暫くそのまま、私の意識は桜たちに吸い込まれてしまっていて。ドンッという鈍い衝撃で意識が戻った。いきなりのことで足元がふらつく。視界を占拠していた桃色がぐらりと歪んだ。

「あ、ごめん!」

 そんな私の腕を咄嗟に掴んだらしい子が、慌てたように声を上げる。ひらりと揺れた制服のスカートがなければ性別を間違えていたかもしれない。そのくらい、その子は中性的な顔立ちをしていて。
 私より背も高くて、声だって女の子にしては低い。細い足が駆けていた方向から私に向き直る。腕を掴んでいた手は、いつの間にか離されていた。
 私の様子を窺がうように、彼女は私の顔を覗き込む。飛びかけていた意識が再び引き戻された。

「だ、大丈夫です」

 少し戸惑いつつも、やっとのことでそう言葉を吐き出す。何年生だろう、年上かな。そんなことを思いながら、思わず敬語で喋っていた。そんな私の返事に安心したらしい彼女は、ふわりと微笑んで再び足の向きを校舎へと変える。

「じゃ!」

 振り返った彼女が、片手をひらりと上げた。桜の花びらを纏いながら、黒髪の少女は細い足で再び駆け出していく。



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