君だけを見るから、君も僕だけを見てて。 あの青く大きな空だって、可愛らしく健気に咲く道端の花だって、羽を懸命に動かして空を切っていく鳥だって、 君の気を引いてしまうのなら、僕の嫉妬対象になるには充分過ぎる理由になる。 「ほら、見て見て章吾っ」 無邪気にはしゃいで、花が咲くような笑顔を振り撒く彼女。 心臓は少し鼓動を速め、僕に向けられた彼女の一挙一動を見逃すまいと、可愛らしい声で紡がれる音を一つ残らず聞き取ろうと、耳や目が、全神経が彼女へと向けられる。 「どうしたの?」 「夕陽、真っ赤」 きれー、と目を輝かせながら沈みかけの太陽を見つめる。 僕にだけ向けられていたはずの視線を奪い去った太陽に、僅かな嫉妬を抱く。 これが人間、ましてや男だったりするならば、僕は気が狂ったようになる。 僕のことだけを見ていてくれれば良いのに。 僕のことだけを考えてくれれば良いのに。 「しょーご、」 くるりと振り返り、可愛らしく僕の名前を呼ぶ。 君は、僕のこんな醜い感情を知らない。 僕がこんなにも君に惹かれているなんて、知らない。 「私ね、彼氏出来たの」 世界が、止まったような気がした。 「だから、もう二人でいたり、出来ないの」 「ごめんね、章吾」 僕にだけ、向けられているはずの視線だったのに。 君の瞳は、何処か遠くを見ていた。 あの夕陽と同じ色、鮮血のような赤に (君の視線を奪い去った相手を、染めてしまいたいよ) |