短編 | ナノ


君だけを見るから、君も僕だけを見てて。

あの青く大きな空だって、可愛らしく健気に咲く道端の花だって、羽を懸命に動かして空を切っていく鳥だって、

君の気を引いてしまうのなら、僕の嫉妬対象になるには充分過ぎる理由になる。


「ほら、見て見て章吾っ」

無邪気にはしゃいで、花が咲くような笑顔を振り撒く彼女。
心臓は少し鼓動を速め、僕に向けられた彼女の一挙一動を見逃すまいと、可愛らしい声で紡がれる音を一つ残らず聞き取ろうと、耳や目が、全神経が彼女へと向けられる。

「どうしたの?」

「夕陽、真っ赤」

きれー、と目を輝かせながら沈みかけの太陽を見つめる。
僕にだけ向けられていたはずの視線を奪い去った太陽に、僅かな嫉妬を抱く。

これが人間、ましてや男だったりするならば、僕は気が狂ったようになる。
僕のことだけを見ていてくれれば良いのに。
僕のことだけを考えてくれれば良いのに。

「しょーご、」

くるりと振り返り、可愛らしく僕の名前を呼ぶ。

君は、僕のこんな醜い感情を知らない。
僕がこんなにも君に惹かれているなんて、知らない。







「私ね、彼氏出来たの」



世界が、止まったような気がした。



「だから、もう二人でいたり、出来ないの」

「ごめんね、章吾」



僕にだけ、向けられているはずの視線だったのに。

君の瞳は、何処か遠くを見ていた。



(君の視線を奪い去った相手を、染めてしまいたいよ)


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -