短編 | ナノ


あれは、在りし日の幼い記憶。

「また遊ぼうね」そう言い合った日から、数日後。
ひょんなことから病院で出会った名もわからない友人は、この世を去っていたらしい。
でも、それは、今になってわかることで。


『お空に行ったのよ』

悲しそうな、母の顔。
幼い俺に、死を感じさせたくなかったのだろう。

空を飛んでいる飛行機に乗れば、会える?また、遊べる?
でも、僕は飛行機に乗れないから。

自由に飛び交う鳥に伝言を頼もうか。
でも、彼らは僕を見るなり何処かへ飛び去ってしまう。

何か無いかな。そう迷った僕は、空に浮かぶ黄色い風船を目にした。
勿体無いな、誰のだろう。
きっと、あれを手離してしまった子は、今もわんわんと泣いているんだ。

あぁ、そうか。
あれなら、きっと届くんだ。

お母さんにねだって、風船を手に入れた。
「離さないようにしなさいよ」、そう言っていたけれど、この風船は空に飛ばすために手に入れたんだ。

ふわふわと浮く、赤いそれ。
このまま、僕もお空に行けたら遊べるのに。

手紙を書いて、結び付けた。
準備が出来たのは、翌日のお昼。昨日は、疲れて寝てしまったから。


何だか勿体無い気がして、離すのを躊躇ってしまったけれど。
えい、と、握りしめていた糸を掌から解放する。


ふわふわ、ふわふわ、赤が綺麗な青空に映えていて。
鳥につつかれたりしないかな、風で変な方向に行ってしまったりしないかな。
見守る僕の不安とは裏腹に、赤い風船はどんどんと小さくなっていく。

ついに見えなくなったとき、何故か僕はわんわんと泣いていて。
家の中から慌てたように出てきたお母さんに理由を訊かれた僕は、ただ空を指差した。

風船が無くなったことが悲しかったんじゃないよ。
ただ、あの風船を受け取ってくれるあの子は、僕の手が届かない処に行ってしまったんだと、何故かわかってしまったから。

手紙は、届いたのかな。

『また遊ぼうね』

君は、読んでくれたのかな。




「ふぅん、可愛いな」

「可愛い言うな」

俺の思い出話ににやりと笑うと、前島はぽんぽんと俺の頭を撫でてから優しく包み込んでくれた。

「俺は、いつでも届く位置にいる」

あぁ、そうだな。
いてくれないと、困るんだ。


なんでこんなことを思い出したのか、
なんでこんなことを前島に話したのか、
よくわからないけれど。

前島の言葉は、俺の心に染み込んでいった。



(顔も朧気な過去の友人へ。)
(君は、新しい人生を踏み出していますか?)





ネタ(赤い風船の下り)は、あるお方からお借りしました。
許可をくださって本当にありがとうございます!( ;∀;)

最後はやっちまいましたねすみません本当。
しかも、ネタの提供者様達ですてへてへ(誰か殴れよ


切なくてほのぼのとして幼くて可愛い感じ目指しましたてへ。
文才が欲しいです、本当。

20120504


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