嗚呼、そういや誰もいないんだったな。 と、静かな部屋で独り言ちた。 コンロのパチパチという音も、誰かの歩く足音も、テレビから流れる賑やかな声も聞こえない。 煩いな、と眉を顰める日常からは程遠い家の雰囲気に、何故だか少し身震いした。 このまま、自分は誰からも忘れられて音もなく消えてしまうのではないだろうか。 そんな、馬鹿げた錯覚。 メールも、電話も来ていない。元々誰かと頻繁に連絡を取る方では無いから当たり前なのだけど。 でも、今ではそれすらもその現象の原因になるような気がして。 意味もなく過去のメールを遡ってみれば、そこには確かに自分と話をしている誰かがいた。 携帯が細かい振動を生む。 静かな空間を好むために、余程のことがなければマナーモードに設定されている携帯が光を発する。 画面には、メールを受信したという内容が表示されていた。 かちり、指先を動かした。 近頃では画面をタッチする物を使う人が多い。 でも、あそこまで多機能な物を持っていても自分には宝の持ち腐れだ。今のままでなんら支障は無い。 画面を進めていくと、宛先人はある女の子の名前。 本文を表示しようと、カーソルキーに何度か指を沈める。 とくり、と、胸が騒がしくなった。 “家に一人って、寂しいよね。” 唐突に、それだけを記す白黒の画面。 彼女のメールは、いつだってこうだ。 文字や句読点以外を持たない本文を見つめながら、差出人の心境を考える。 寂しい、と言っているなら、本当に寂しい、のかもしれない。 何故か同じ状況に立たされている彼女を思い浮かべて、思わず笑みを零した。 そうか、あの子が寂しいと言っているのか。 でも、彼女は何を望んでこのメールを送ったのだろう。 文字の羅列に指を乗せてみるも、それが沈むことはない。 なんと送れば良いのか、というかまず今は何時だ。 視線を時計へ遣る。 小さな画面を見つめていた目は少しだけ抵抗を示したが、針の位置は認識できた。 あと少しで、昼だ。 寝過ぎたな、そうぼんやり思いながらも、指ははっきりと文字を生み出していた。 “うどんならあるけど。” 無愛想にもとれる、彼女と同じ白黒の文面。 かちり、送信ボタンを押した。 携帯は柔らかな布団にぼふり、と落下。 そうだ、着替えて準備しなければ。 きっと、彼女は此処にやって来て、あの深爪にしてしまった指でチャイムを押す。 “そばがいい。” 思ったより早く届いた返事に、声を出して笑った。 臆病者の集い チャイムが家の中に響き渡る。 玄関へと急ぎ、ドアを開けた。 パーカーのポケットに手を突っ込んだ彼女が、少し気まずそうに此方を見遣る。 「蕎麦はない。ただ、今ならきつねうどんが温玉きつねうどんになる」 「……妥協してやろう」 また声に出して笑いながら、私は彼女を暖かな家の中へと入れてやった。 (メールと変わらず無愛想な彼女は、俯きながら僅かに肩を揺らしている) 20131103 ぼんやりしてたらいつの間にかできてた。 友情を書くのは久しぶり。 |