俺の彼女は、少し変わっている。 彼女というより、友人なのではないかと思う瞬間もある。一緒にいて居心地が良いのは確かだ。 だが、付き合ったとき、周囲に何度も正気かどうかを確かめられた辺りからしても、やはり彼女は変わっているらしい。 「結婚しませんか、」 するり、と、その言葉は口から零れ出た。特別お洒落なレストランにいるわけでも、付き合ってから何年が経っただとかいうそんな特別な日でも、ようやく給料が貯まって買うことが出来た指輪のようなプレゼントがあるわけでもない。 ただ、すんなりと。俺の部屋で楽しそうにトランプタワーを作っている姿を見ていたら、いつの間にか俺はその言葉を彼女の背中に投げかけていた。 「唐突ですね」 「そうでしょうか」 振り向き、一瞬だけきょとんとして。 ソファに深く腰掛けて緑茶を啜る俺を、彼女はまじまじと物珍しいものを見るような瞳で俺のことを見つめている。 そして、何故か敬語になった俺につられて、彼女も敬語。 トランプタワーがばらばらと崩れてゆく。彼女が指先でつついたからだ。 「じゃあ、想像してご覧なさい。私たちが仲睦まじく朝いってらっしゃいの接吻をしている姿を想像できますか」 今の彼女は、恐らく文化人だ。 もうすっかりなりきってしまっているらしく、目線はいつもと違って俯きがちで、眉間に皺を寄せている。文化人はみんな真面目なしかめっ面なんだという、彼女の変な思い込みからだろう。 「……接吻ですか」 「ええ、接吻です」 彼女の気分を壊さないようにしようと、俺もそれに便乗した。俺の立場は、その文化人に憧れる学生といったところ。 ある日は老人と若者だったし、またある日は教師と生徒だった。何故かいつも俺の方が立場は下だ。 「出来ませんね」 はっきり言って、彼女との間に甘い雰囲気が漂うことは少ない。 恋人の前に想い人なわけだから、俺だって彼女にときめくし、嫉妬もするし、独占欲だってある。ただ、その感情を彼女におおっぴらに向けるかと言われたら、そうではない。 いつも、彼女はこんな調子でいる。恋人らしい雰囲気というのは、おおよそ五年ほどそばにいても二三度あるか無いか。 「でしょう」 大げさなまでに大きく頷いた彼女は、タワーの破片となったトランプを集め終わったらしくケースの中にしまいこんでいる。 正座の姿勢だった足を崩して、彼女は俺の方に近寄ってきた。 立てばいいものを、膝立ちで。 絨毯の毛がつくから、黒い服を着ているときはやめろといっているのに。きっと、彼女の膝小僧は絨毯と同じ薄茶色だ。 「でもね、私は、貴方以外と一緒に暮らしてる姿なんて、もっと想像出来ないんです」 俺の膝にそっと手を乗せた彼女は、そこで三つ指をつき、深々と一礼した。 「不束者ですか、どうぞよろしく」 (ごっこ遊びが終わると、彼女はにやついた笑みで俺に抱きついた。) 20130725 この子達ちょこちょこ追っていきたいです。 |