短編 | ナノ


単純なのだわ、女なんて。
愛されたら、それで満たされるのよ。

そう吐き出しながら、彼女は素足をぶらぶらと動かした。

彼女の腰掛けたソファがギシギシと軋む。昨日も同じ音をあの男と出していたのだろうか、と考えて頭を振った。思春期真っ盛りの男子でもあるまいし、と思いながらも、思考は止まるところを知らない。

「何考えてるの?」

ちょうど、想像の中の彼女が潤んだ瞳でこちらを見つめているところだった。
現実世界の彼女は、馬鹿にしたような色で俺を見ていたけれど。

「いや、なんでも」

「ふーん」

ぶらぶら、ぶらぶら。
揺れる動きとともに、足首に巻きつけられた細い銀の飾りがしゃらしゃらと音を鳴らす。
これを付けられたあの日から、彼女は大人しくなった。自由奔放だった彼女は、この頼りなさげな銀の輪に縛り続けられている。

「幸せよ」

散らばった写真。
割れたままの食器。
彼女のものではない、紅の色。

これが原因か、と、足元に放ってあったシャツを踏み潰した。

軽い軽い、足枷。
しかし、数グラムしかないそれに、幾多もの重圧がのしかかっている。いつか、重みに耐えきれなくなって切れてしまうのだろうか。
この鎖も、彼女の自制心も。

やめてしまえばいい、と、そう面と向かって言うことが出来ないのは、満たされている、と言って微笑む彼女の姿が儚く美しかったから。
そんな彼女を、魅力的だと思っていたから。

「目には目を、歯には歯をと言うだろう」

どさり、と彼女の背中をソファに押し付ける。顔の横に手をつけば、あの頃に帰ったかのような錯覚にすら陥った。

静かに、静かに彼女は息を吐き出す。
大きく胸が上下した。
切なく、綺麗に微笑みながら紡いだ言の葉は。





(きっと、俺は何処かで彼女を愛してる。)



20130718




元遊び相手の男性と、飼い主を見つけた女性のお話。
飼い主様は多頭飼いをしているらしい。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -