夕飯の支度をして、彼の帰りを待っていた。遅くなると連絡を貰って、それから時計の短針が二回左にずれたところまでは、覚えている。 かちゃかちゃ、陶器の触れ合う音がした。はっとして顔を上げれば、私の前に座るのは部屋着を身に纏った伴侶で。 「帰ってたの、ごめんなさい、私、いつの間にか寝てたみたい」 慌てて席を立ってみたものの、お茶碗には白米がよそってあるし、ガラスのコップには氷とお茶が入っている。おかずは一つ残らず湯気が立っていて、そもそも食事は終盤に差し掛かっていた。 すとん、と腰を下ろす。寝起きのせいでぼんやりとしたまま蛍光灯を見つめていたけれど、食後のお茶でも出そうと思い立って再び腰を上げた。 「いいから、ゆっくりしてて」 くすくすと、笑いながら。その言葉に甘えて、私は椅子に座ると食卓に置きっぱなしにしていた湯呑に口をつけた。もう、すっかり冷めてしまっている。 「遅くなってごめん、先に休んでても良かったのに」 「ううん、待ちたかったの」 かたん、と食器を置く音。次に彼が手に取ったのは、冷や奴で。唯一温められなかったそれは、湯呑の中にある冷めきったお茶より冷たいに違いない。 「一人でご飯を食べるのは、寂しいでしょう」 そう言う私の口元に、差し出される箸先。彼を見たら、あーん、とそう言われて。 おとなしく、口を開いた。口の中に優しく押し込まれたお豆腐が、ひやりとした温度を舌に伝える。とろり、それは形を崩した。お醤油と、青葱。それに、ぴりりとしたみょうがの味。 「美味しいですか?奥さん」 くすくすと、笑いながら。優しく細められた瞳が、あまりにも温かくて。 「素材の味が活かされている気がしませんか?旦那さん」 「えぇ、とても美味しいです。 いつも、ありがとう」 頭に乗せられた掌が、あまりにも優しくて、温かいから。ほんの少し泣きたくなっただなんて、言わないけど。 「待っててくれて、ありがとう。美味しいご飯も、ありがとう。 一人じゃない夕飯は、とても温かいね」 もう、寂しい思いはさせないから。相手の全てを、包み込んでしまえばいいから。 そのくらいの愛を、私たちは持っているのよ。 くるん、君を包むように。 (もう側には私がいるってこと、わからせてあげるから) 20130323 友人にネタくれと言ったところ、 「最近気になっている、豆腐について」 と言われたので。 ついて、ではないけど豆腐出しました( |