短編 | ナノ


「ツインテールの日なんだって!」

机の上に鏡を置いている彼女は、にこにこと髪に櫛を通しながら。
彼女は、鏡の中にいる自分を見つめながら、必死に髪を左右対称にしようとしている。目線は、合わない。

「誰から聞いたの?」

「うんと、さっちゃん!」

ああ、あの子か。
そう納得して、彼女の隣へと腰を下ろした。時は、放課後。この席に座っている生徒は、とっくのとうに帰宅している。

どうやら、彼女はツインテールに悪戦苦闘している模様で。
高さが微妙に違うだとか、間に髪が残っただとか、なんだか結び目が浮いているだとか、何度も何度もゴムで纏めてはそれを外していた。
いい加減、髪が痛むのでは。そう思い立ち上がって、彼女の手からゴムを奪った。

きょとん、とこちらへ顔を向ける彼女。座っている彼女と、立っている私。そうして出来た高低の差から出来た顔の角度に、胸が高鳴る。だめだ、顔が赤くなる。それだけは避けようと、彼女の視線から逃れるために背後へ。分け目がはっきりとわかるようになった髪にさらりと触れれば、胸が高まった。
幸せだ。こうして触れられることが。普通に話し、当たり前のように側で笑えることが。

「やってもいい?」

「やったぁ、うん!」

わかっている、のに。

机上で開かれたまま放置されていた折りたたみ式の櫛を手に取って、彼女のさらさらとした髪を梳く。流れるように背中へと集まる茶色がかった細いそれは、私のものとは全く違っていて。

指先から、愛しさが伝わってしまえばいい。
いや、やはりそれではだめだ、これが崩れてしまうのは、いや、でも。
心中では、そんな葛藤。

当の彼女はと言えば、ご機嫌なようで。ぱたぱたと前後に振れている細い足と、鏡の中でにこにこと微笑んでいる顔。
そして、私に話しかける声が、明るく弾んでいる。

「自分じゃできないから嬉しいー!」

「そっか、」

思わず、笑いそうになった。
でも、その少し後になんだか悲しくなって。
彼女は、私のこんな葛藤など知らないのだろうなぁ、きっと、知っても戸惑ってしまうよなぁ。そう思うと、どうしてもやりきれなかった。
こんなにも、想っているのに。
それが、届かない。届くわけがない。届いては、いけない。

中心で、二つに髪をわけた。
その片方にまた櫛を通し、机に散らばっていたピンの中からヘアゴムを探し出す。
前傾したときに、ふわりと鼻をくすぐった甘い香り。シャンプーだろう、香水などとは違って、爽やかだ。
胸が、締め付けられる。
こんなにも、近い。物質的に言えば、今は距離なんて零だ。
なのに、心はこんなにも遠い。私と彼女の気持ちは、あまりにも違いすぎていた。
悪いのは、私だろうか。

髪を持ち上げ、ゴムを通そうとした。
鏡に映る彼女を、ちらりと覗き見る。目を閉じていた。小さな声で、何かを歌っている。耳を傾けてみれば、彼女が好きな歌手のものだった。切ない、恋の唄。

ぎゅう、と、どこかが音を立てる。わけもわからないくらい悲しくなり、不意に彼女を抱きしめてしまいたくなった。すきだと、想っていると、泣きながら伝えてしまいたくなった。
悪魔の囁き。
彼女を困らせてしまえ、と。

掌に包んでいた彼女の髪からは、またあの、甘い香り。
やりきれない。何故。こんなにも近いのに。
何故私は女で、いや、むしろ、何故人は異性にしか恋をしなくて、

心の中がぐちゃぐちゃと、嫌な色に染まる。

嗚呼、もう、こんなにも愛しいなんて。

触れていた指先から、伝わってしまえばやはり楽なのだろうか。
精一杯の想いを込めて、彼女の髪を撫ぜる。

そして、そっと唇を落とした。
強く香る、甘い香り。惚れ薬か何かなのかもしれない。そう考えた自分に、思わず笑った。

切ない想いは、このどうしようもなく燻る感情は、この薬の作用による一時的なものだ。
そうに違いない、いや、そうでなければならない。

でなければ、私はいつか、この温かい関係を壊してしまうのだろう。





(願えば願うほどその薬は効き目を増してしまうのだと、少女はまだ知らないでいる。)



20130202



ついったでこういう百合くれって言ったら、相棒が素敵な絵を描いてくれたので書くっきゃないなと。
今日はツインテの日!

相棒からの許可下りたので…!!
素敵なイラストを本当にありがとう!!!





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