短編 | ナノ


「好きなら好き、嫌いなら嫌い。それで良いじゃないか。
どうして、みんなそんなに複雑にしたがるんだ?無理して取り繕うんだ?」
「それはね、アルノ。人間は、嘘をついて生きていくからさ。」
「僕だって人間だ、なのに、」
「違うよ、アルノ。君は、人間じゃない。」

風が吹いた。
クーノのさらりとした前髪が、彼の瞳を一瞬隠してから、また戻る。
悲しそうで、どこか冷たい、そんな瞳だった。

視界が揺らぐ。
クーノは今、何と言った?

「なに、言って、」
「アルノ、君はね。

人間じゃ、ないんだ。」

泣き出しそうな、いや、もう泣き出してしまったクーノ。
目尻はいつものように下がっているのに、その瞳からは次々と雫が出てくる。

ねぇ、クーノ、嘘だろう。

「嘘だ、だって僕は、人間だよ、ねぇクーノ、だってほら、見てくれよ、僕はクーノと同じだよ?」
「アルノ、君は、アンドロイドなんだ。ごめん、ごめんね、アルノ。ずっと隠していたんだ。」

泣きながら、クーノは僕の髪に触れた。

「君はね、アルノ。人々が嘘なんてつかずに生きていきたいと、思うままに、何も気にせずに生きたいと願った末に出来た、みんなの夢なんだ。君のように生きたいと願いながら、君は、アルノはつくられたんだ。」

風が、吹く。
クーノの前髪を揺らしたその髪は、嘲笑うかのように僕の頬を撫ぜた。



20121218



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