短編 | ナノ


骨張った手に、指を添えた。ぴくり、彼が反応を示す。
テレビへと向けられていた顔をこちらに向け、彼は私の顔を覗き込んだ。
「どうした?」
言いながら、私の手首を取りその大きな手で包み込む。優しい温もりが、私の冷え切った指先を暖めていく。
「相変わらず冷たい手だな。」
そう笑いながら。

「あのね、」
向けられた視線に応えるように、私は彼の目を真っ直ぐと見つめ返した。
彼の手首を掴み、私の首へ。

「ここを絞めつけながら、殺してほしいなって、思ったの。」

彼の温かい手が、私の首に触れる。
太い血管をどくどくと流れ続ける血液が、喜んだように勢いよく心臓へと向かっていくような気がした。

「死にたい、か?」

悲しそうに、どこか怯えたように。
彼は、私の首を優しく撫でた。左手は、ふかふかな絨毯を力強く握りしめている。

そんな彼に腰を落としたまま近寄り、肩口に額を落とした。
首を撫でていた手で、抱きしめられる。
ほんの少し、震えているような気がした。

「わからない、でも、殺されたいと思ったの。
何かが辛いとか、そんなんじゃない。ただ、この熱に包まれて死にたいなって。
……なんでだろうね。」

両腕で、きつく抱きしめられる。
その勢いで肩口に鼻が押し付けられ、私は少し笑みをこぼした。

そんな私をきつくきつく抱きしめながら、彼は震えている。
悲しませてしまったのだろうか、そんなつもりではなかったのに。

きっと、寂しかったんだ。
この温もりに触れたくて、しょうがなくて。
それだけなんだと、信じたかった。



彼女の願いは残酷でいて美しい
(この上ない賛辞を有難う、でも今はまだ、その時ではない。)





20121220



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