短編 | ナノ


鋭利な切っ先を払い、己の暗闇すらも切り裂いて。
落ち着くことのないこの衝動を、少しでも鎮めてみたかった。

転がっている肉塊を、足先で転がす。先程までは息をし、動いていたそれは、今となっては最早生ゴミだ。
「あーあ、」
溜息と共に吐き出したその声。灰色の空に、血生臭い空気。
最悪と言っても良いロケーションに、俺は酷く興奮していた。
もっと、もっと、もっともっともっと、
             血を。
研ぎ澄まされた聴覚に届いたのは、空を切る音。わざと、ワンテンポ間を取ってから振り向く。
目前を、銀の刃が。
尖端が、頬を切り裂く。つぅ、と血が頬を伝う。
ーー嗚呼、全く。
手の甲で拭い取った、赤。
その赤を舌で舐め取り。
「ほら、おいでよ。」

口角を上げ、敵を、玩具を挑発し、死へと誘う姿は血に飢えた獣か何かか。




(口内には、慣れ親しんだ鉄の味が広がっていた。)






戦わないと気が済まない人のお話。

20120829



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