短編 | ナノ


降り続ける、塩水。
涙と同じ味をする切なさを孕んだそれは、空からの孤独な旅の疲れを癒すかのように、地では仲間と集まり水溜まりを作り出す。

さぁ、私の仲間は、何処だろう。


乗り込んだ電車の座席に座り込む。柔らかさと、ほんの少しの固さ。
やっと落ち着くことが出来た、と人知れず溜め息を吐いた。

ふと視界に映ったのは、濃いピンクの柄。
そのまま目線を下にやると、透明なビニール地に可愛らしいピンクの水玉模様が。
手摺に引っ掛けたまま、忘れ去られてしまったのだろう。
持ち主不在になってしまったその傘は、寂しそうに電車の揺れと共に左右にゆらゆらと動く。

私は、そっと手摺に傘を加えた。
水玉模様のそれよりも大きく、私の物は紺地に白の水玉模様だ。

電車の揺れと共に、二つの傘がゆらゆら揺れる。
寂しくないよ、大丈夫。

私にそう、話し掛けてきたような気がした。






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