短編 | ナノ


苦しい、ね。

そう呟いた彼女の口は、やがてきつく結ばれる。
ぐ、と、力が込められ、白くなっていく桜唇。
色を失っていく桜を見続けるのは心が痛んだから、そっと指を桜に挟ませた。

驚いたように口を開いた彼女は、僅かに跡が付いた指を見てから、小さくごめんと溢す。
桜に色が戻ったことに安心した俺は、それをそっと指で撫ぜた。

僅かに紅が挿してしまったそれであるが、むしろ尚艶かしく美しい。


「俺なら、泣かせないよ」


俺から目を逸らした彼女は、やがて桜から“ありがとう”を零した。




(咲かぬ花なら我が咲かせてやろうぞ、と)

20120723



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