短編 | ナノ


「夢を見たの」

暗闇の中に、彼女の真っ白な腕が浮かび上がる。
空を掴むように掌を握り締めると、やがてぱたり、ベッドの上へと腕を落とした。

「貴方が、消える夢だったわ」

横に寝転がる彼女は、華奢な背中を此方に向けた。
表情は、見えない。
ただ、彼女の肩が小刻みに震えるのが、目に入るだけ。

「永遠なんて、無いって。そんなの、わかってるのよ」

長く、さらりとした細い絹糸のような彼女の髪が、ベッドへと広がっている。
その髪を一房、手に取って。

「信じてみなきゃ、何も始まらない」

動きを止めた彼女を、後ろからそっと抱きしめた。
震えは、治まったようだ。

「君が信じれば、叶うかもしれないだろ」


今日も僕らは、不確定で不明瞭な未来に夢を見る。


(神様、願わくば僕らに永遠を。)



君からこの髪が抜け落ちようとも、君からその歌うような声が喪われようとも、僕の心だけは、君の傍にあるように。



20120709


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