短編 | ナノ


「君は、残酷だ」

眉を寄せて、目の前に立つ青年は苛立たしげに。

「どうしようもなく、残酷だよ」

掌に力強く握りしめられた彼のシャツが、濃い皺を描く。
耳元で輝くピアスが、小さく揺れた。私があげたそれを、身に着け続ける彼。

私が残酷なら、貴方はなんだというの。
貴方だって、私を苦しめる程度には残酷。

「なんで、なんで……っ」

私が貴方を縛り続けていると言うのなら、貴方だって逃げれば良い。

鳥籠は、とっくのとうに開いている。
なのに、それでも飛び立とうとしないのは貴方じゃない。

縛り続けているのは、どっちよ。

「他の奴に貰った物なんか、なんでっ」

彼の視線が、私の一点に注がれる。

左手の、薬指。
簡素ながらに、それでもしっかりと輝きを放つそれ。シルバーだけでデザインされている、輪を。



「さようなら」



(さぁ、飛び立つとき)


貴方がくれた物じゃない、そんなことも忘れたの?


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