memo ねたつめあせ。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 月が笑うと猫も笑うのだそうだ。 そう教えてくれた彼からは、いつだって甘くてさわやかな香りがした。 「月って笑うの?」 高貴な精神をお持ちな猫様は扱いが難しい。引っ掻かれた手の甲をさすりながら緑茶を口に含む茶髪を見つめた。膝ではスタイルの良い白猫様が丸まっている。さすが動物、種族は違えど異性がお好みなようだ。 「笑うさ、」 きっと彼はこの白猫様に引っ掻かれたことなんて一度もない。まるで恋人を撫でるような優しい手つきで彼女の細い肢体に触れる。ごろごろ、にゃあ。彼女もまた、恋人に甘えるような可愛らしい声を出す。 「ほら、今日の月は笑ってるよ」 彼が自分の後ろを指した。出窓は開いていて、涼しい風が白いレースのカーテンを揺らしている。どれどれ、と窓に近づき、月を望もうと窓のすぐ前に手をついた。途端、背中から伝わる温もり。いつもの甘くさわやかな香り。窓からの月は、三日月だった。なるほどにんまりと笑っている。 「今日のお月様は、ご機嫌だから」 俺たちのことだって、温かく見守ってくれるよ。 首筋に落とされた口付け。くすぐったくて少し笑った。白猫様もいつの間にか出窓に来ていて、その視線は窓の外。 そうだ、桃の香りだ。 彼の香りに酔いながら、私は上品に笑む白猫様を見つめていた。 |