塗りつぶされる日常 06 「……へ?」 ぽかんとした表情で、先生は僕を見つめる。言われたことがまだ理解できていないみたいだ。 「もう一度言いますよ。好きです」 ようやく理解したのか、先生の顔がぼっ! と赤くなった。 「す、好きって…!!」 「好きです。だから抱かせてください」 一歩ずつ、先生との距離を詰める。驚いたせいか、先生は一歩も動かなかった。 そうして先生の顔が目の前に来た時、僕は唇に食らいついた。 「ん、んんっ」 思いの外、柔らかい唇。それを存分に味わう。 唇を舌でこじ開け、そのまま舌をねじ込む。先生の舌を探して口内を蹂躙する。暖かくて、気持ちいい。 先生の舌は、奥の方でうずくまっていた。それを無理矢理引きずり出して、僕の下に絡める。 くちゅくちゅと、舌と舌が奏でる水音が響く。 しばらくして、その唇を離した。離した途端、先生はげほげほとむせながら息を吸っていた。どうやら途中で息を吸えなかったらしい。 「わかった? …僕、本気ですよ」 いつもは女っぽいと言われるけど、しようと思えば男らしい表情だってできる。…そんなに長い間はできないけど。 「本当に、俺のことが…?」 「だから、そうだって言ってるじゃないですか」 広くなってしまった二人の距離を縮めるために先生に近付く。先生の顔は、なんともいえない表情を作っていた。 「だって、俺男だし…もう40過ぎてるし…」 うつむき加減に離す先生。…それが可愛いのに。 「性別なんて、関係ないよ。年齢だって同じ。僕は、先生だから好きになった。みんなに好かれてて、人気者の可愛い先生を」 「か、可愛いってお前…!」 「可愛いよ。先生は可愛い。そんじょそこらの女の人よりも」 近くにある体を、ぎゅっと抱きしめる。──離したくない。 「だから、先生。先生も僕のこと好きになってよ。誰よりも愛してあげる。僕を一番にしてよ……」 僕だけの先生になってほしい。僕のことを一番に考えてほしい。先生を、独占させてほしい。 「……わかった。お前のこと好きになるよ。努力する」 ちょっとだけ赤くなった顔で、先生がそう言う。その表情も、可愛い。 「やった!」 「言っとくが、今はまだ恋人としては見れないからな。これからだ」 「うん!」 うれしくて、僕は先生の体に頬を擦りつける。この先生が、僕のものだなんて! 「恋人になったんだから、名前で呼んでもいいですよね?」 「ああ」 「じゃあ…彰浩さん」 名前を呼ばれた瞬間、先生は勢いよく顔を逸らした。 「名前呼ばれるの、嫌ですか…?」 「い、いや…ちょっと恥ずかしいだけだ」 逸らした顔も赤いし、耳まで赤い。どうしよう。抑えきれない。 back next |