塗りつぶされる日常 05




「野々村―。背中にあるチャック開けてくれ。届かないんだ」
「はーい」
 僕の身長より若干高いところにあるチャックへ手を伸ばす。
「先生いいなー、身長高くて」
「そんなこと気にしてたのか?」
「気にしますよ。これでも男子高校生ですから」
 ジジーっと音を立て、ジッパーを引っ張っていく。
「なーに、野々村も運動すれば少しは高くなるさ」
「少しはって先生…」
 そんなくだらない話をしながら、先生の着替えを手伝う。

「へー。先生の肌ってけっこうすべすべしてるんですね」
「そうか?」
 先生の、少し日に焼けた肌へと手を伸ばす。触れると、見た目と違って滑らかな肌。するすると、手が肌を滑って行く。

 どくんっ。
 心臓が高鳴る。その滑らかな肌を、もっと感じていたい。味わいたい。そんな欲望が、鎌首をもたげた。
 この欲望は、何だ? 先生を、僕の下に組み敷きたい。めちゃくちゃにしたい。僕のものだと、示したい。
 抗うことのできない強い感情。何をもってしても実行したいと、それは僕に思わせる。
 僕は、それを否定しない。むしろ肯定する。わかっているのだ、それから逃れられないことぐらい。

 こういうことをしたいと思うということは、僕は先生のことが好きなんだろうか。
 ふと、そんなことを考えた。よくよく考えてみれば、先生に抱いてるこの想いは恋心なのだろうとわかる。家族愛に似た、愛情。
 それがわかってしまえば、もう躊躇うことはない。──最初っから躊躇ってなんかいなかったけれど。

「── 先生」
「なんだ?」
「……好きです。抱かせてください」
 言った。言ってしまった。もう引き返せない。口から出てしまった言葉は、もう口の中に戻ったりはしてくれないから。



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