塗りつぶされる日常 02




「皆どうだ? 進んでるか、うん?」
 教室のドアを開けて入ってきたのは、担任の伊館(いだて)先生で。四十路を迎えても全く衰えることを知らないスポーツで鍛えた逞しい体に、がっしりとした体格。短く刈った黒い髪。
 若いようで若くない。そんな不思議な雰囲気の先生だ。

「せんせー!」
 近くにいた女子が、先生を見て声を上げた。
「ちょっとこっち来てください!」
 その声に引かれて、先生はふらふらと教室の中に入っていく。

「順調も順調ですよ!」
「メイドも執事もしっかり仕上がってます」
 衣装係の女子が、自慢げにクラスの方へ手を広げる。そこにいるのは、異性装をした約15人余りの男女。男女比は半々といったところだろうか。

「明くんと綾人くんを見てくださいよ先生。すっごくお似合いだと思いません?」
 立ったまま話していた僕らを、女子が横並びにする。
「おお、どっちも女装や男装をしてるとは思えん出来だな」
 あごに手を当て、先生が感心したようにふんふんと頷く。

「そうだ。どうせなら先生も女装してみたらどうです?」
 と、唐突に綾人がそんなことを言い出した。その一言に、教室の中が静まりかえる。
 どういった意味合いを持って静まりかえっているのかはわからないけど、誰もが口を開けない状況にあることだけは確かだ。
 ──言い出した綾人を除いて。



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