塗りつぶされる日常 01 間仕切りがされた教室の隅で、僕は衣装係から渡されたぴらぴらとした服を手に持って佇んでいた。 ぴらぴらとしたその服は所謂メイド服とかいうやつで。今度の文化祭でうちのクラスがやる出し物の、「女装男装、メイド&執事喫茶」で使う衣装である。 可愛い系の男子が女装し、中性的な女子が男装して客をもてなすという趣旨の出し物なのだけど…正直言って着たくない。断固拒否したい所存だ。 いくら僕が可愛いとはいえ──え、自分で言うなって? 事実だから仕方ない──これでも一応男なのだ。好き好んで女物の服を着る趣味はない。 断りたいが……被害者は僕だけじゃないので、大人しくあきらめることにする。 …提案したやつをぶっ飛ばしたいと思うのも、僕だけじゃないはずだ。 どうせ一日だ、時間が経てば忘れられる。そう高を括って、僕は制服のボタンに手をかけた。 「きゃー! 明くんかっわいいー!」 「本当に女の子みたーい!」 メイド服を着て出てきた僕を出迎えたのは、クラスの女子の黄色い悲鳴だった。 「メイド喫茶提案してよかったー!」 「ほんとほんと。こんなに可愛い明くんが見れてあたし幸せ!」 僕の周りを囲む女子。これって、男としてうれしい状況じゃないのか…うん、うれしくないや。 「明、お前すげーなあ。ほんと、女子みたいだぜ」 女子のバリケード── 失礼。包囲網をかき分けてやってきた、背の高い執事服の人物が僕に話しかけてくる。 「綾人!」 僕に話しかけてきたのは、幼馴染の綾人だった。 隣の家に住んでいて、幼稚園の頃から一緒だった綾人。昔からかっこよかった。 …しかしながら、綾人は女なのであった。それは、今着ている執事服からもうかがえる。 「相変わらず可愛らしーな、明は」 「綾人がかっこよすぎるだけだって!」 昔からよく、逆の性別に間違えられたものだ。幼稚園のスモッグは男女で違うデザインになっているにも関わらずに、だ。 「本当に似合ってるよ、綾人。女子なら一発で惚れるね。間違いなく」 「それを言うなら明こそ。セクハラされねえように気をつけろよ?」 じゃあな! と言って、綾人は服の微調整をするために衣装係の元へと歩いて行った。 「明くん、一応服の調整するからこっち来てくれない?」 「わかった。今行くよ」 綾人が行ったすぐ後に、僕も服の調整のため彼女らのところへ歩いた。 back next |