04





「遅くなりました! 準備できたっす!」
部屋の奥にあるドアが大きな音を立てて開き、中から180センチ後半はありそうな大柄な男が出てきた。
「遅い! いつまで待たせる気だ」
「す、すみません店長〜!」
だが、その体躯に見合わない声色とヘタレ具合が彼の男らしさを台無しにしている。

「そうだ、お前も自己紹介しておけ。……今日はたくさん可愛がってもらえるぞ」
「俺の名前は片口比良都ってゆうんっす。今日はよろしくっす!」
はにかんだような笑顔を、こっちに向けてくる青年。その笑顔を見ると、男らしいのか可愛らしいのかよくわからなくなってくる。

……って、何を考えているんだ僕は。相手は僕より逞しくて背も高いのに。そんな彼に「可愛い」と思うなんて。今日は疲れているんだ、きっとそうだ。
ぶんぶんと頭を振り、今しがた頭に浮かんだことを吹き飛ばす。
「よろしくお願いするね、片口君」
人見知りな僕なりにフレンドリーさを心がけた結果なんだけど…片口君はなんだか固まっている。…フレンドリーにし過ぎたのかなあ…

「俺、そんな風に呼んでもらえるの久しぶりでっ、すごくうれしいっす! 店長はお前とか呼び捨てにしかしな──!」
ふごっ。片口君の口から、そんな音がした。原因は凪さんが突っ込んだお菓子だ。
「ふごふご、ふぐー!」
口の中に入れられたお菓子を飲み込もうとして、変な音が出ているらしい。やっぱり、なんだか可愛いと思ってしまう。

「くすっ」
思わず、軽い笑いをもらしてしまった。珍しい。あんまり人前で笑うことなんてないのに。
「おや?」
片口君に構っていた凪さんが、こちらを向いて片方の眉を持ち上げた。
「慣れてきたんじゃないですか? 人前にいることに」
凪さんにそう言われて、そうかもしれないと僕は思った。親しくない人の前でなんてめったに笑わないし、親しい人と一緒でも知らない人がいたら笑わないのに。不思議だ。
「そうですね、ちょっとずつ慣れてきてるみたいです」
このままいけば、そうしないうちに人見知りが治るかもしれない。僕は、先程よりも強い希望を胸に抱いた。

「さて、それでは今日の仕上げに掛かりましょうか」
そう言うと、凪さんは席を立って部屋の奥の方に歩いて行く。さっき、片口君が出てきたドアがあった方だ。
「この結果如何によって、どこまで治せるかが決まります。張り切って臨んでくださいね」
そう云う凪さんの笑顔はなんとも言えない魅力を持っていて、僕は思わず口を馬鹿みたいに開けてしまっていた。

一呼吸置いた後我に返った僕は、大きな声ではい! と言ってから、凪さんに追いつくために小走りで走り出した。
その時の僕は治療のことに頭が一杯で、どんな方法を採るのかについては全く考えてもいなかった。

この時すでに、運命の針は回りだしていたと云うのに。







11.05.30.Mon


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